「実家の片付けで親と揉めない」生前整理の始め方 ― 村上充恵さんに聞く

生前整理コンシェルジュの村上充恵さんは、信販会社・損害保険会社でキャリアを重ね、両親の介護をきっかけに生前整理の世界へ。1年弱に及んだ実家の片付けは、失敗と後悔の連続だったといいます。その経験の先に村上さんがたどり着いたのは、「捨てる」より先に、写真と思い出を整えるという方法でした。実家の片付けを何から始めればいいか迷っている方にこそ届けたい、村上さんの原点の物語です。
「ご本人にやっていただくのが一番」。セミナーで伝える日々
村上さんは現在、生前整理を伝えるセミナー講師として活動しています。企業の社員研修や集客セミナー、個別相談の窓口のほか、近年は自治体や大学の生涯学習講座に招かれる機会も増えました。
「以前は自分の実家や親戚の家、お客様のお宅の生前整理もしていました。ただ、お宅に直接うかがったのは本当に数件です。基本は、こちらが行って手をつけるのではなく、ご本人にやっていただくのが一番いいんです。そのための生前整理ですから」
生前整理と聞くと、家中のモノを片付ける「作業」を思い浮かべる人が多いかもしれません。けれど村上さんが何より大切にしているのは、モノの整理から始めて、心の整理につなげること。
「そこが一番のポイントなので、こちらが手を出してやってしまうと意味がないんです。あくまでサポートですね」
その信念は、村上さん自身の苦い経験から生まれたものでした。
きっかけは、自分自身の「介護離職」だった
村上さんのキャリアは、生前整理とは縁のない場所から始まっています。大学卒業後、クレジットカードの信販会社に勤め、その後は損害保険会社の商品開発室へ。出産を機に一度退職し、その後は結婚相談所でコンサルタントのような仕事をしていました。
「両親の介護が始まってしまったのがきっかけで、この世界に突然入ることになりました」
両親が二人での暮らしを続けられなくなり、施設への入居を検討しながら、週に2回、3回と実家へ通う日々。仕事との両立は、ほどなく限界を迎えました。
「介護をしながら、実家を片付けて売ることも必要でしたし、その前にモノの片付けと気持ちの整理も必要で。とても片手間ではできませんでした。当時は知識もなかったですし、喧嘩ばかりでしたね」
退職したのは、両親が施設へ移り住む1年半ほど前。そこから施設探し、片付け、引っ越しの準備と、休む間もなく走り続けることになります。
「80代の両親に生前整理の準備をさせようというのが、そもそも間違っていたんです。父は足腰が思うように動かなくなっていて、母も体調に不安を抱えていて。二人ともなかなか戦力にはならないなと。でも、このまま二人で置いておくのも心配で。先に入居日を決めてから進めるという感じでした」
施設に入居すれば、少しは落ち着くはず。そんな期待も、すぐに裏切られました。
「全然落ち着かなくて。母の受診や手術があったり、二人が代わりばんこに倒れたり。それでも施設に入っておいてもらえれば、私がつききりでお世話をすることはしなくていいかな、と。本当にギリギリのところで、走りながら勉強しました」
「捨てるよ、捨てるよ」。1年弱の片付けは喧嘩ばかりだった
いまでこそ「実家の片付け」と検索すれば情報があふれていますが、村上さんが直面した当時は、事情がまったく違いました。
「実家をどうやって片付けたらいいかという情報が全然なくて、手伝ってくれる業者さんもいなかったんです。要介護の親を抱えて移り住みをするにはどうしたらいいか、誰にも聞けませんでした」
手探りで始めた片付けは、失敗の連続だったといいます。
「あの頃はまだ、一般的に言うところの『いらないモノを捨てる』からやっていました。捨てるよ、捨てるよと言って、両親にすごくつらい思いをさせたと思います。逆に両親は、なるべく捨てないと、あの子が怒るから、という感じで身構えてしまって。私が取っておいてほしいモノを親が捨ててしまったり、親が取っておいてほしいモノを私が処分してしまったり。全然噛み合いませんでした」
「親は『移り住みはするよ』と言いながら、いちいち反発してくるんです。ここまで進んだかなと思って行くと、全然進んでいない。ゴミにしておいたところから、また出してくる。反抗してるの?って(笑)」
笑いを交えて振り返る村上さんですが、当時捨ててしまったモノの話になると、言葉に少し間が生まれます。
「父が大事にしていた大工道具も、私が捨ててしまって。父は悔しかったと思うけれど、我慢して怒らずにいてくれました。母のコレクションの化粧品も、頭に来て捨ててしまって、後で泣かれたり。それぞれが一番大事にしていたモノを、私は捨ててしまったんです。それが間違いでした。大事にしているモノは取っておいてあげればよかった。今でも時々、仏壇にごめんねと言っています」
のちに生前整理を学び、村上さんは自分の失敗の理由を知ります。
「親がモノを大事にするには、訳があるんです。世代的に、そういう世代なんですね。だから『捨てろ』という言葉が一番いけない。それを知ったのは、もう散々喧嘩をした後の、少し手遅れくらいの時でした。父にはもう来るなと言われ、母には泣かれ。そういう修羅場をくぐってから、『なんだ、こうすればよかったんだ』と気づいたんです」
この失敗談を、村上さんはいま、講座で包み隠さず話しています。
「私はこういうふうに失敗しました、こんなひどいことを言ってしまいました、だから皆さんはこういう言葉を使わないでね、とお話しします。親は親なりに、生きてきた世代の価値観があるんだから、合わないのは当たり前なんだよ、と。偉そうに話していますけど、実は全部、自分が失敗したからなんです」
もし当時に戻れるとしたら、何を大切にしたいか。そう尋ねると、村上さんは少し間を置いて答えました。
「これとこれは取っておこうね、と話し合えたらよかった。何より、両親が弱る前、元気なうちにやりたかった。それが本当に後悔です」
「吐き出す場所」だったブログが、活動の入口に
生前整理を仕事にしようと、最初から決めていたわけではありません。入口になったのは、介護の日々を綴ったブログでした。
「どこか吐き出す場所が欲しくて、ブログを始めたんです。生前整理アドバイザーの認定指導員の資格を取った頃ですね。親が運転で車をぶつけたので免許返納をどうしたか、自分の困ったことをどう解決したか。暗くならずに、前向きに勉強しながらこう解決したよ、という形で発信していました」
学んだことが、そのまま両親の介護生活を支える力になる。その手応えが、「教える側」に立つ迷いを消していきました。
「自分で学んで調べたことが、そのまま親の介護生活を支えることに繋がったので、講座で教えることと自分の体験とに、あまり区別はないんです。何の準備もなく、私みたいにぼうっとしていると、親がこうなった時に大変だよ。でも、こうしたらうまくいったから、みんなあらかじめやろうよ、と。その発想が生前整理普及協会とぴったり合ったんです。みんなも知っておいた方がいいよ、という、そういう軽い感じですね」
1年以上動けなかった相談者が、1ヶ月で片付けきれた理由
生前整理は「モノの片付け」だけではない。村上さんがそう確信した出来事があります。不動産会社の店舗で生前整理の相談窓口を務めていた頃に出会った、ある相談者とのエピソードです。
「都内のご実家を売りたいのに、ご両親のモノがそのままで、どうしても売る気になれないという方が相談に見えたんです。売ると言ってから1年以上、手をつけられずにいました。転勤でご実家の手入れもままならなくなるとわかっているのに、片付いていないから売れない、と」
その方のご両親はすでに亡くなっており、片付けの対象は遺品でした。物理的に片付けられないのではなく、気持ちの整理がつかないのだ。そう見立てた村上さんが伝えたのは、たった2つの手順でした。
「まず、ご両親の思い出箱を作りましょう、と。思い出のモノだけを入れる箱を作って、これはと思うモノをそこに入れてください。もう一つは、写真とアルバムだけは一切捨てずに、全部集めてください。作業の手順として、それが1番と2番です、とお伝えしました」
「『いらないモノを捨てるんじゃないんだ』と、その方はすごく驚かれました。でも結局、その方は1ヶ月ほどでやり遂げて、あとは業者さんを入れていいです、と晴れ晴れとした顔でおっしゃいました。1年進まなかったものが、です。それがきっかけで、これはこういう方法がいいなあ、と確信を持ちました」
心の整理を後回しにしたまま業者に片付けを任せると、思わぬトラブルにつながることもあるといいます。
「多くの高齢の方は、しょうがないかと納得はされますが、やっぱりもやもやしてしまう。中には、引き出しに入っていたはずだ、金目のモノを勝手に売っただろう、と根拠のない因縁をつけてトラブルになる方もいるんです。でも、自分の気持ちがちゃんと整理されていれば起こらないこと。だから写真と思い出を先にやる。自分の大切なモノは、自分にしか見つけられませんから。」
親と揉めない生前整理は、「写真」から始める
では、これから親の生前整理を始める人は、何から手をつければいいのでしょうか。村上さんの答えは明快です。
「親子でやるなら、まず写真の整理を一緒にして、思い出話をしまくる。これが一番のおすすめです。実家で元気なご両親と一緒にやるなら、写真から始めると失敗がないし、拒否もされません。急がば回れでいいんだな、と思います」
なぜ、写真なのか。そこには、片付けを進めるだけでなく、親子関係そのものを整える効果があるからです。
「親と一緒に写真を整理すると、親御さんの人生を、ある意味で知ることになりますよね。親御さんは思い出を子どもに話して共有できる。親子にとって、これ以上の幸せはないんです。親の気持ちも落ち着くし、信頼関係がぐっと上がるので、片付けで多少揉めても修復ができます。いきなり『捨てるぞ』と乗り込むのとは、全然違うんです」
モノを減らす段階に進んだら、即「捨てる」ではなく、売る・寄付・供養など上手に手放す。その一つとして、フリマアプリという「楽しみ」を取り入れるのも村上さん流です。
「メルカリを教えて手伝うと、ハマる方もいるんですよ。高齢の方はスマホが得意でないこともあるので、お子さんが写真を撮ってアップしてあげて、『お母さん、売れたよ』と。お小遣いにもなって、もらった人も喜ぶ。それを教えると、手放すハードルがぐっと低くなるんです」

「お母さん、売れたよ」。フリマアプリを親子で楽しむことが、手放すハードルを下げる
そして大切なのは、「終活」だと構えさせないことだといいます。
「終活だとわかると、親御さんは構えてしまうので。写真の整理やフリマアプリといった楽しみを入れて、なるべくハードルを低く。安全に暮らせるようにだよ、というくらいの気持ちで、終活感をなるべく抑えてやるといいと思います。もちろん、家族関係によって色々で、みんながみんなこれで幸せとは限りません。でも、後悔はしてほしくない。だからこそ、できるだけ元気なうちに、親と生前整理をしてほしいんです」
親の生前整理は、自分の「予行練習」
講座の受講生に、村上さんがいつも伝えている言葉があります。
「親の生前整理をするということは、思い出もできるし、いざという時に自分に降りかかる負担も少なくなります。でも、それだけじゃなくて、自分の予行練習だと思ってやってください、と。親の生前整理ができた方は、自分もこうしよう、ここはうまくいかなかったから自分はこうしよう、と考えます。それを見たお子さんたちも、こうしてくれて助かったから自分もこうしよう、と。どこかで必ず、いい連鎖に変わっていくんです」
一方で、親に切り出すときの言葉選びには、注意が必要だと言います。
「『私が困るから片付けてよ』という言い方をすると、親も『何よ』と思ってしまう。それを前に出さずに、思い出を作ろうよ、二人で、家族で楽しもうよ、と。自分のためじゃないよと言うけれど、まあ大抵、自分のためなんですよね、親の生前整理って(笑)。自分の時にどうするかは、親のことをやると本当によくわかります」
インタビューの最後、村上さんは親子の関係について、こんな言葉で締めくくりました。
「親はいつまでも親でありたいので、子どもに指示命令されるのを嫌がる方も結構いらっしゃいます。そこでバチバチやると喧嘩になる。ここは子世代が、どれだけ親を上手に動かすかを学ぶ場。これも親に育てられているんだな、と思うと、イライラしても少しは我慢できるんじゃないかな。いきなり片付けるぞと乗り込んだり、エンディングノートを送りつけたりすると、親はもう来るな、とそこで断絶してしまう。だから並走していく。親も子もその気はあるのに、噛み合わないお家を何軒も見てきましたから。生前整理で、その関係性を良くしてほしい。それが一番の願いです」
実家の生前整理 よくある質問(編集部まとめ)
Q. 実家の生前整理は、何から始めればいいですか?
A. 村上さんが一番にすすめるのは、親子で写真の整理を一緒にして、思い出話をすることです。写真から始めると失敗がなく、拒否もされにくいといいます。
Q. 実家の片付けで親と揉めてしまいます。どうすればいいですか?
A. 村上さん自身、「捨てるよ」と迫って両親につらい思いをさせた失敗を経験しています。「捨てる」という言葉を避け、「手放す」を使うこと。モノに合ったさまざまな手放し方を親子で楽しむこと。また、写真の整理で信頼関係を作ってから進めると、多少揉めても修復できると語っています。
Q. 生前整理はいつ始めるのがいいですか?
A. 「両親が弱る前、元気なうちにやりたかった」というのが村上さんの一番の後悔です。できるだけ親が元気なうちに、「終活感」を抑えて楽しみながら始めることをすすめています。
プロフィール

村上 充恵(むらかみ みつえ)さん
村上 充恵(むらかみ みつえ)
生前整理コンシェルジュ/ル・リアン横浜代表。信販会社・損害保険会社で営業企画と商品開発に携わり、結婚相談所勤務を経て、両親の介護のため離職。自身の実家の片付けの経験から生前整理を学び、生前整理アドバイザー1級認定指導員に。企業研修、自治体・大学の生涯学習講座などで「後悔しない、あったかい生前整理」を伝えている。
ふれあいの丘は、生前整理の分野を村上充恵さんに総合監修いただきながら、片付けの手順だけでなく、その手前にある「気持ち」に寄り添う情報をお届けしていきます。
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