親・家族の気持ち

介護離職を防ぐ完全ガイド|親が元気なうちにやる7つの準備と仕事を続ける制度活用法

介護離職を防ぐ完全ガイド|親が元気なうち

「親が倒れたら、仕事を辞めるしかないのだろうか」——そんな不安を抱えている40〜50代の方は、決して少なくありません。年間10万人を超える方が介護を理由に離職していますが、制度・準備・親との対話を整えれば、辞めずに乗り越えられる可能性は十分あります。この記事では、今すぐ使える制度から、親が元気なうちにできる備えまでを具体的にお伝えします。

監修:村上充恵(介護離職防止対策アドバイザー/生前整理アドバイザー認定講師。自身の介護経験を基に、働きながら親の介護を続けるための実践プログラムを提供。)

本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別の医療・法務・税務に関する判断を行うものではありません。具体的な状況については、地域包括支援センター・社会保険労務士・ケアマネジャー・ハローワーク等の専門家にご相談ください。

介護離職の現状——年間10.6万人、あなたも明日は当事者かもしれない

介護離職は「自分とは関係のない話」ではありません。総務省統計局「令和4年就業構造基本調査」(e-Stat)によれば、2022年の1年間で介護・看護を理由に離職した人は約10.6万人。そのうち女性が約8割を占め、年代別では50代がピークです。

さらに深刻なのは将来の見通しです。経済産業省「仕事と介護の両立支援に関する経営者向けガイドライン」(2024年3月公表)では、2030年には約318万人の「ビジネスケアラー(働きながら介護をする人)」が生まれると推計されており、日本総合研究所(ビジネスケアラーの実態)は、ビジネスケアラーによる経済損失が年間約9兆円に達するとしています。

なぜ離職してしまうのか——よくある3つの理由

  • 突発性:介護は育児と違い、「いつ始まる」という予測がほぼできない。親が突然倒れた翌日から介護が始まることもある
  • 長期性:育児はゴールが見えるが、介護は終わりが見通せないため、精神的・体力的に消耗しやすい
  • 親の抵抗:「迷惑をかけたくない」「施設には入りたくない」という親の意向が、公的サービスの活用を遅らせてしまう

なぜ「離職してから動く」のは遅すぎるのか——キャリアと経済の現実

「いざとなれば仕事を辞めて介護に専念すればいい」と考えている方に、知っておいてほしいことがあります。

厚生労働省の調査では、介護を理由に離職した後、元のような条件で再就職できる人は少数にとどまります。収入の減少は生活費だけでなく、公的年金の加入記録(厚生年金から国民年金への切り替えによる将来給付の変化)にも影響します。年金や再就職の具体的な試算は社会保険労務士やねんきんネットにご相談いただくことをおすすめしますが、「辞めてから介護を始める」選択のコストが思いのほか大きいことは、多くの方に知っておいてほしい現実です。

介護する期間の平均は約5年(うち4年以上という方も多い)とされており、その間の収入ゼロ・キャリアブランクは想定よりはるかに重くなる場合があります。「働きながら整える」ことが、ご本人のウェルビーイングにとっても長期的には重要な選択です。

介護休業・介護休暇の正しい使い方(2025年改正対応)

制度を知らないために「辞めるしかない」と思い込んでいる方は少なくありません。まず知っておきたい2つの制度があります。

介護休業(最大93日・3回分割取得可)

  • 対象家族1人につき、通算93日まで取得できる
  • 3回に分割して取得可(例:最初の危機に30日、回復期に30日、施設選びに33日など)
  • 申出は休業開始の2週間前までに書面等で会社へ
  • 雇用保険から賃金の67%相当の介護休業給付金が支給される(ハローワーク経由で申請)

介護休暇(年5日・半日単位OK)

  • 年間5日(対象家族が2人以上の場合は10日)まで取得可
  • 1日単位・半日単位での取得ができるため、通院の付き添いなど短期の対応に使いやすい
  • 無給の場合もあるため、会社の就業規則を確認するとよい

2025年4月施行——改正で何が変わったか

2025年4月に育児・介護休業法が改正施行され、企業側の義務が強化されました。主な変更点は以下のとおりです(厚労省「仕事と介護の両立 〜介護離職を防ぐために〜」)。

  • 40歳を迎えた従業員への介護両立支援制度の個別情報提供(義務化)
  • 介護休業・介護休暇を申し出た従業員への両立支援措置の個別周知(義務化)
  • テレワーク・在宅勤務による介護との両立(努力義務)

「会社に言い出しにくい」と感じている方も多いですが、2025年以降は企業側から情報提供される仕組みが整いつつあります。まず自社の人事部門や就業規則を確認することが、最初の一歩として取り組みやすい方法です。

地域包括支援センターを最大活用する手順

介護の専門窓口として、まず頼りにしてほしいのが「地域包括支援センター」です。無料・匿名でも相談でき、全国どの市区町村にも設置されています。

最初の電話で伝えると話が早い3項目

  1. 親の現在の状況(「最近物忘れが増えてきた」「転倒して骨折した」など)
  2. 自分(子世代)の就労状況(「フルタイム勤務で週5日出勤しています」など)
  3. いちばん困っていること(「一人暮らしの親が心配で仕事に集中できない」など)

センターでは、要介護認定の申請手続きの案内、地域の介護サービス事業者の紹介、ケアマネジャーとのつなぎ役まで対応してくれます。「まだ介護が必要というほどではない」という段階からでも相談できます。

要介護認定〜サービス開始のステップ

  1. 市区町村の窓口または地域包括支援センターに要介護認定を申請する
  2. 認定調査員が自宅を訪問(かかりつけ医の意見書も必要)
  3. 原則30日以内に認定結果の通知が届く(厚労省「サービス利用までの流れ」)
  4. 担当ケアマネジャーが決まり、ケアプランを作成する
  5. 訪問介護・デイサービス・ショートステイ等のサービスが始まる

地域の地域包括支援センターは厚労省「介護サービス情報公表システム」で検索できます。具体的な支援内容や手続きについては、センターの担当者やケアマネジャーにご相談ください。

親が元気なうちにやる7つの準備——介護離職予防の最前線

介護に備えるうえで最も後悔が少ないのは、親が元気なうちに動いておくことです。「今日が一番若い。5つの力(決断力・判断力・分別力・管理力・体力)があるうちにしかできないことがある」——これは生前整理普及協会が伝え続けている言葉です。

以下の7項目は、「介護が始まってから慌てて探すことになりがちな情報・体制」を事前に整えるためのリストです。

  1. かかりつけ医・服用薬の把握
    親が通っている病院名・診療科・担当医の名前、常用薬の種類をメモしておきましょう。急な入院や救急搬送のとき、この情報があるだけで動きが大きく変わります。
  2. 地域包括支援センターの連絡先を確認する
    「いざとなれば地域包括に電話する」とわかっているだけで、焦りが和らぎます。親が住む市区町村のセンター名と電話番号を今のうちにメモしておくことをおすすめします。
  3. 通帳・年金証書・保険証券の所在確認
    「どこにあるか」さえわかれば十分です。具体的な番号を控えるというよりも、いざというときに親本人か家族が見つけられる場所をお互いに把握しておくことが大切です。
  4. 兄弟姉妹との役割分担の合意
    「誰が主に介護に関わるか」「金銭的な負担はどう分けるか」「遠方の兄弟はどう協力するか」——これを介護が始まってから議論すると感情的な対立になりやすいです。元気なうちにざっくりでも話し合っておくと、後がずっと楽になります。
  5. 親の希望(自宅か施設か)を聞いておく
    「できれば家にいたい」「施設でもいい」「子どもに世話をかけたくない」など、親の本音をあらかじめ知っておくことで、介護の方向性を決めやすくなります。この対話のきっかけについては、次のセクションで詳しく紹介します。
  6. 勤務先の介護関連制度を確認する
    自社の就業規則の「介護休業」「介護休暇」「介護短時間勤務」の項目を今すぐ確認しましょう。制度があることを知っているだけで、緊急時に判断の選択肢が増えます。
  7. 介護にかかる費用相場を把握しておく
    在宅介護の場合は月5〜15万円程度、施設入居は種類によって月10〜35万円超など、幅があります(金融広報中央委員会「仕事と介護を両立させるための4つのポイント」参照)。具体的な費用設計は社会保険労務士やファイナンシャルプランナーに相談されることをおすすめします。

また、親の介護準備を進めるなかで、実家の荷物・大切なものの整理を一緒に進めておくことも、いざ介護が本格化したときの動きやすさを大きく左右します。実家じまいの進め方は生前整理とは?意味と始め方ガイドもあわせてご参照ください。

親との「話しづらい話」を切り出す対話ツール——生前整理メソッドの転用

「介護の話をしよう」と言っても、多くの親は嫌がります。それは親が薄情なのではなく、「老い・死・依存への抵抗感」が自然にあるからです。リクルートワークス研究所(親との話し合いの難しさへの向き合い方)も、「将来の介護について親と話し合おうとしても、なかなか話が進まない」という実態を指摘しています。

そこでおすすめしたいのが、「将来の話」ではなく「過去の振り返り」から入るアプローチです。生前整理普及協会の実践メソッドは、親との自然な対話の入り口として活用できます。

対話を開く3つのメソッド

  • 人生振り返りノートを一緒につくる
    親が歩んできた人生を一緒に辿るノートです。「お父さん、若い頃はどんな仕事をしていたの?」という問いかけから始め、仕事・趣味・思い出のエピソードを一緒に整理していきます。自然な会話の流れの中で「これからどこで、どう暮らしたいか」という対話へつながっていきます。
  • ベストショットアルバムを整理しながら話す
    アルバムや古い写真を一緒に見ながら「これはいつの写真?」「この場所、懐かしい」と話していると、親は自然と語り始めます。思い出話の延長線上に「最期まで自分らしく過ごすにはどうしたいか」という話がつながりやすくなります。
  • 思い入れ箱を一緒に選ぶ
    「大切なものをこの箱に入れてみよう」という作業を通じて、親が何を大事にしているかが見えてきます。モノへの価値観が見えると、暮らし方や希望の話も自然に進みます。

この順番——「まず一緒に思い出を整理する(モノ)→ 親の価値観を知る(心)→ 将来の希望を聞く(情報)」——は、いきなり介護の話・お金の話から入るよりずっとスムーズです。対話の目標は「書面にまとめること」ではなく、「お互いの気持ちを知ること」です。

家族会議の進め方

  • 参加者:親・兄弟姉妹・できれば配偶者も。全員が揃わなくてもまず1〜2人から始めて大丈夫です
  • 場所:実家のリビングなど親がリラックスできる場所が理想的です
  • 頻度:1回で全部決めようとしない。年に1〜2回、軽い話し合いを積み重ねる方が続きます
  • NGワード:「早く決めないと」「もう年なんだから」「なんでこんな状態にしたの」などは避けましょう

親との対話の切り出し方については、親への生前整理の切り出し方もご参照ください。

ビジネスケアラーのウェルビーイング——介護する側も「より良く生きる」

介護をする側が自分を犠牲にし続けることは、結果的に介護の質を下げます。疲弊したケアラーが良い介護を続けることは難しく、精神的・身体的な健康を損なえば、最終的には介護そのものが立ち行かなくなります。

生前整理普及協会の理念「より良く生きる」は、親世代だけでなく、介護する子世代にも当てはまります。「完璧な介護よりも、続けられる介護を。介護する側も、より良く生きていい」——これは、多くの介護経験者が実感してきた言葉です。

ビジネスケアラーがセルフケアのために意識したいこと

  • 「一人で全部やらない」を決める:介護保険サービス・ヘルパー・デイサービスをフル活用して、自分が担う範囲を意識的に絞る
  • 「できないこと」を早めに職場に伝える:残業が難しい、急な休みが必要になる可能性がある、と伝えておくだけで、チームの動きが変わります
  • 自分の時間を守る:週に1〜2時間でも「自分のための時間」を作ることが、長期的な介護継続の基盤になります
  • 介護者の集まり・相談窓口を使う:同じ立場の人と話すだけで、「自分だけではない」という安心感が生まれます。地域包括支援センターや社会保険労務士に相談することも一つの選択肢です

介護離職を考え始めたら確認する5つの相談先

「もうどうしても仕事を続けることが難しいかもしれない」と感じたとき、まず動いてほしい相談先を整理します。離職を検討する前に、これらを一通り確認することをおすすめします。

辞める前のラストチェック

  • 介護休業(93日)をまだ使い切っていないか
  • 介護休業給付金の申請はしているか
  • 介護保険サービスをフル活用できているか(ケアマネジャーに相談したか)
  • 家族内での役割分担の見直しはしたか
  • 施設入居・グループホーム等の選択肢は検討したか

5つの相談先

  1. 地域包括支援センター
    介護サービスの入り口として最初に頼る窓口。無料で相談でき、ケアマネジャーや各種サービスへのつなぎ役を担います。
  2. ハローワーク(公共職業安定所)
    介護休業給付金の申請先。離職後のキャリア相談・再就職支援も担当しています。
  3. 社会保険労務士
    介護休業の手続き・給付金の申請サポート・離職後の年金・保険への影響など、労務・社会保険の専門家として相談できます。
  4. ケアマネジャー(介護支援専門員)
    要介護認定後に担当となる専門職。ケアプランの作成・介護サービスの調整・就労状況に合わせた在宅ケアの設計を担当します。
  5. 会社の人事部門・産業カウンセラー
    2025年の法改正で、企業側は介護をかかえる従業員への個別対応が義務化されています。職場の人事担当者や産業カウンセラーに現状を伝えることが、柔軟な勤務体制の実現につながる場合があります。

具体的な対応については、地域包括支援センター・社会保険労務士・ケアマネジャー・ハローワークに個別にご相談ください。

介護離職を防ぐために——今日1つだけやること

この記事で伝えてきたことを3つの柱で整理します。

  • 制度を知る:介護休業93日・給付金67%・2025年改正の義務化内容を把握する
  • 介護体制をつくる:地域包括支援センター・ケアマネ・介護保険サービスを活用して「一人で抱えない」体制をつくる
  • 親と対話する:思い出の整理・写真・アルバムを入り口にして、自然なタイミングで希望を聞いておく

「一人で抱えない」ことが、介護離職を防ぐ最大の対策です。

ここで大切なのは、「全部を今日中に解決しようとしない」ことです。まず今日、1つだけ動いてみましょう。

  • 親がまだ元気な方:親が住む市区町村の地域包括支援センターの名前をインターネットで検索してみる(5分でできます)
  • すでに介護が始まっている方:会社の就業規則で「介護休業」の項目を今日確認してみる
  • どこから手をつければいいかわからない方:まずは生前整理チェックリストで親・自分の現状を棚卸しする

認知症の兆候が気になる親との整理の進め方については、認知症の親と生前整理も参考になります。

「完璧な介護よりも、続けられる介護を。介護する側も、より良く生きていい。」

今日からできることが、必ずあります。

監修:村上充恵(介護離職防止対策アドバイザー/生前整理アドバイザー認定講師。自身の介護経験を基に、働きながら親の介護を続けるための実践プログラムを提供。具体的な介護体制の整え方や親との対話について、さらに詳しい内容をご希望の方は専門家へのご相談をおすすめします。)

\ 読む時間がない方へ /

この記事の要点と、実家じまいの手順をまとめた「完全ガイドブック(PDF)」を無料プレゼント中!

LINEで今すぐ受け取る(無料)

※完全無料 ※いつでもブロック可能

この記事の監修者

村上 充恵

生前整理普及協会 認定指導員/AFP/介護離職防止対策アドバイザー/神奈川大学エクステンション講座 講師

株式会社Kogera「生前整理支援センター ふれあいの丘」運営。実家じまい・遺品整理・生前整理の進め方を、当事者とご家族の目線でわかりやすくお届けしています。監修者プロフィール →

あなたの実家の損失リスクを無料診断 👉