親・家族の気持ち

親が認知症になったら|物の整理・実家じまいの進め方と相談先

親が認知症になったら|物の整理・実家じま

「認知症と診断されてから、実家のことが頭から離れない」——そんな思いを抱えている方は少なくありません。本記事では、認知症の進行段階に合わせた物の整理アプローチ、本人の意思が確認できるうちにやっておきたいこと、成年後見制度の概要、家族でチームを組むための相談窓口を順を追ってご紹介します。「まだ間に合う」と感じたなら、まずは一歩から始めてみましょう。

認知症と物との関係——なぜ整理が難しくなるのか

認知症は記憶の問題だけでなく、物の場所の把握・不要かどうかの判断・片付けの手順を組み立てるといった「実行機能」にも影響を与えます。そのため「物が増えているのは分かっているのに整理が進まない」「今まで普通にできていたことが突然できなくなった」という状態が現れます。これは本人の意志の問題ではなく、脳の機能変化が背景にあります。

大切なのは「なぜ整理できないのか」を責めるのではなく、「今どの段階にあるか」を把握しながら、本人が安心できる形で進めることです。認知症と診断された後の生活全般の支援については、地域包括支援センターが無料で相談を受け付けています(厚生労働省「認知症に関する相談について」)。

なお、「高齢になってから急に物が増えた」ケースや「物を手放せない理由が加齢・世代価値観にある」場合は、親が物を手放せない理由と家族の関わり方も参考にしてください。本記事は認知症の進行に伴う整理・実家じまいに特化しています。

物と記憶は深くつながっている

認知症の方にとって、身の回りの物は単なる生活用品ではなく「自分がここにいる」という安心の拠り所になっていることがあります。慣れ親しんだ物が突然なくなることで、混乱や不安が強まるケースも現場では多く見られます。整理を進める際は「捨てる」ではなく「一緒に選ぶ・手放す」という視点が、本人の心理的負担を軽減します。

医師や地域包括支援センターのスタッフと連携しながら、本人の状態に合ったペースで進めることが、家族関係を守りながら整理を前に進める最善の方法です。医療・ケア上の判断については、必ずかかりつけ医や専門医にご相談ください。

進行段階別の整理アプローチ——軽度・中度・重度

認知症の進行段階によって、本人が関われる範囲が変わります。「今の段階でできること」を見極めながら進めることが、後悔の少ない整理につながります。段階は目安であり、本人の状態は個人差が大きいため、かかりつけ医や担当のケアマネジャーに確認しながら進めてください。

軽度:本人と一緒に「選ぶ」段階

軽度の段階では、本人が自分の意思を表現できます。この時期が最も大切な「ゴールデンタイム」です。物の整理を「捨てる作業」としてではなく、「思い出を振り返る時間」として位置づけると、本人が積極的に関わりやすくなります。現場の経験から言えば、「一緒に手を動かす」という共同作業が、本人の意欲を引き出す最大のきっかけになります。

  • 「残したいものを教えて」と聞く——本人が主役になれる問いかけです。「捨てていい?」ではなく「どれが好き?」という言葉に変えるだけで反応が変わります。
  • 一日一か所、引き出し一段から始める——大きなゴールを設定せず、小さな達成感を積み重ねます。「今日はここだけ」の声かけが動き出しのきっかけになります。
  • 「残す・もう少し考える・手放す」の3択を示す——判断の負担を分散させます。「捨てる」という言葉は使わず、「どこかに旅立たせる」という表現が心理的な抵抗を和らげます。
  • 思い出の品が出てきたら立ち止まって話を聞く——急がず、会話の時間として楽しむ姿勢が信頼につながります。話が長くなってもよいのです。その時間そのものが、本人にとっての生前整理になっています。

この段階で片付けられない親への関わり方も合わせて参考にしてください。声かけのフレームや進め方の工夫が整理されています。

中度:家族主導でサポートする段階

中度になると、本人だけでは判断や手順の組み立てが難しくなります。家族が主導しながらも、本人の「好き・嫌い」「大切にしてきたもの」を最大限尊重する姿勢が重要です。「これを手放してよいですか」という確認を、できる限り続けることが本人の尊厳を守ります。

  • 本人が反応を示すものは「思い入れ箱」に保管する——一緒にいる時間に見返せるよう、みかん箱サイズの箱ひとつに「大切なもの」を集めます。施設入居後も手元に置ける大きさが目安です。反応が薄い日でも、箱の中身を一緒に眺めることが会話のきっかけになります。
  • ベストショットアルバムを一緒に作る——手のひらサイズのアルバムに家族の写真を10〜15枚選んでまとめます。施設スタッフや面会に来た家族と一緒に見ることができ、記憶の糸口になることがあります。
  • 大量の物の移動は専門業者に相談する——家族だけで抱え込まず、生前整理の経験がある業者や社会福祉協議会に相談することも選択肢です。

重度:安全と尊厳を最優先にする段階

重度の段階では、本人が整理のプロセスに関わることが難しくなります。この時期の整理は「本人のためを思って、家族が責任を持って決める」というフェーズです。ただし、「本人だったらどうしたかったか」という視点を常に持ち続けてください。

  • 危険なもの(刃物・薬・電気製品)を優先的に安全な場所へ移す。
  • 思い入れ箱・ベストショットアルバムは引き続き本人の手の届くところに置く。
  • 重要書類・通帳・印鑑の場所を家族で共有し、管理体制を整える。
  • 不動産・財産に関わる手続きは、後述の成年後見制度の活用を検討する。

この段階では、医療・ケアのチームと密に連携しながら進めることが不可欠です。一人の家族が判断を抱え込まず、担当のケアマネジャーや地域包括支援センターを巻き込む体制を作ることが、結果的に本人の尊厳を守ることにつながります。

本人の意思確認ができるうちにやること

認知症の進行に伴い、本人が自分の意思を言葉で伝えることが難しくなるタイミングが来ます。軽度の段階で「どう生きたいか」「物をどうしたいか」を家族が一緒に確認しておくことは、後の判断の根拠になり、家族の罪悪感を軽くします。「本人が言っていたから」という言葉は、家族間の意見が割れた時の最も大きな決め手になります。

「残したいもの」と「手放してよいもの」を聞いておく

正式な遺言書の作成は公証人や司法書士が対応する専門領域ですが、「この物は誰に渡したい」「これは手放してよい」という本人の気持ちをメモしておくだけでも、家族の意思決定が大きく楽になります。書面にする・録音する・家族みんなで聞く——形はどれでも構いません。大切なのは「誰かが一人で知っている」のではなく、家族全員が共有していることです。

遺言書の内容・書き方・法的効力については、公証役場や司法書士にご確認ください。本記事では一般情報の紹介にとどめます。

「思い入れ箱」を本人と一緒に作る最後の機会

生前整理の現場で「やっておけばよかった」と後悔される声が最も多いのが、この「思い入れ箱」を一緒に作る機会を逃したことです。本人にとって価値があるものは、家族には分からないことがあります。本人が「これは大切だ」と言えるうちに、一緒に選んでおくことが後の整理を大きく助けます。

みかん箱サイズの箱を一つ用意して、「大切だと感じるものを入れておこう」と声をかけてみてください。思い出の品・写真・手紙・小さなコレクション——何でも構いません。その箱が「本人の物語」を形にしたものになります。軽度の段階でこの箱を作れた家族からは、「片付けが進む前に、まず親のことが分かった」という声を多くいただいています。

財産・口座・保険の所在を家族で共有する

通帳・保険証書・不動産の権利証・年金手帳などの重要書類の場所を、元気なうちに家族で確認しておくことが重要です。認知症が進んでから探し始めると、本人にも家族にも大きな負担になります。具体的な終活の手順については親の終活を家族でサポートする方法も参考にしてください。

なお、相続・財産に関わる具体的な手続きや税務については、弁護士・税理士・司法書士等の専門家にご相談ください。

成年後見制度の概要——判断能力が低下したときの備え

認知症が進行して本人の判断能力が低下すると、財産の管理・不動産の売却・施設入居契約など、本人が単独で行うことが難しい法律行為が生じます。こうした場面に備えるのが「成年後見制度」です。制度の詳細・申し立て手続きについては必ず司法書士や家庭裁判所にご相談ください。本記事では概要のみを紹介します。

法定後見と任意後見の違い

成年後見制度には大きく二つの種類があります(法務省「成年後見制度・成年後見登記制度」)。

  • 法定後見制度:すでに判断能力が低下した後に、家庭裁判所が後見人を選ぶ制度。判断能力の低下の程度によって「後見・保佐・補助」の3段階があります。後見人は必ずしも家族が選ばれるとは限りません。
  • 任意後見制度:まだ判断能力があるうちに、本人が自分で信頼できる人を後見人として指定しておく制度。「誰に任せるか」「何を任せるか」を本人が決められる点が、法定後見との大きな違いです。

認知症の診断が出た後でも、軽度の段階であれば任意後見制度を利用できる場合があります。制度の活用・費用・手続きの流れについては、司法書士や法テラス(法律支援センター)への相談が入り口になります。

成年後見制度を早めに知っておくべき理由

「うちはまだ大丈夫」と思っているうちに手続きの窓口が狭まることがあります。判断能力がある段階での「任意後見契約」は、本人の意思を最大限反映できる制度設計になっています。一方、判断能力が失われてから初めて法定後見を申し立てると、後見人は家庭裁判所が選ぶため、必ずしも家族の希望通りにはなりません。

実家じまい・不動産の処分・施設入居費用の調達を将来的に考えているなら、早い段階で司法書士に相談しておくことが、家族全体の選択肢を広げます。費用の目安・手続きの詳細は専門家に確認してください。

「思い入れ箱」と「ベストショットアルバム」——本人と作る最後の機会

生前整理の現場で長年使われてきた「思い入れ箱」と「ベストショットアルバム」は、認知症の方への関わりにおいても特に力を発揮するメソッドです。「物を減らすこと」を目的にするのではなく、「本人だけが価値を知っているものを守ること」に主眼を置いています。

思い入れ箱の作り方と活かし方

みかん箱サイズの箱を一つ用意し、「大切だと思うものを入れておく箱」と決めます。ルールはシンプルにひとつだけ——「本人が大切だと思えば何でも入れてよい」。家族が「これは必要ないのでは」と口を出さないことが最大のポイントです。

この箱のよいところは、「捨てるかどうか決めなくていい」という心理的な逃げ道になることです。判断に迷う物を「思い入れ箱に入れておく」という選択ができると、整理全体のスピードが上がります。介護施設に入居する際は、この箱を持参することで、本人の安心感が大きく変わることがあります。施設スタッフにも「この箱の中身は本人にとって特別なものです」と伝えておくと、日々のケアに活かしてもらえます。

箱がいっぱいになったら、本人と一緒に見直す時間を設けます。「これはまだ大切?」「こっちはどう?」と一枚ずつ話しながら確認すると、それ自体が思い出を語り合う時間になります。この作業が、本人の「自分の人生を振り返る」プロセスにもなっています。

ベストショットアルバムを一緒に選ぶ

家族の写真を手のひらサイズのアルバムに10〜15枚まとめる「ベストショットアルバム」は、施設での生活を支える大切なアイテムになります。本人が一枚ずつ「これは誰?」「この時はどこへ行ったの?」と話してくれるうちに選んでおくと、写真そのものが思い出の語り口になります。

アルバム選びは「整理」ではなく「会話の時間」です。何枚かプリントして一緒に並べて、「どれが一番好き?」と聞いてみてください。その選び方そのものが、本人の価値観や大切にしてきたものを教えてくれます。将来の施設入居を視野に入れた実家の整理全体については、親が施設入居するときの実家の整理も参考にしてください。

家族・きょうだいでのチーム化と相談窓口

認知症の親の整理を一人で抱えることは、体力的にも精神的にも限界があります。「近くに住んでいるから自分がやらなければ」という状況になりやすいですが、きょうだいや専門家と役割を分担することが、長続きの条件です。一人で完結しようとすることが、最も早く燃え尽きるパターンです。

きょうだいで「役割分担」を言葉にして決める

整理の実務・病院の付き添い・行政手続き・お金の管理——これらを一人が全部担うと、確実に疲弊します。きょうだいで話し合い、「誰が何を担当するか」を言葉にして決めることが最初の一歩です。温度差がある場合は親の介護と家族の役割分担も参考にしてください。

きょうだいと話し合う際のポイントは三つです。一つ目は「親の現状を数字と事実で共有すること」——感情論ではなく、「診断は〇〇段階」「今できないことはこれ」という事実ベースで話す。二つ目は「決断を急がないこと」——話し合いは複数回に分けてよい。三つ目は「外部の専門家を間に入れること」——家族間でこじれそうなら、地域包括支援センターや社会福祉士に同席を依頼する選択肢があります。

「離れて住んでいるから何もできない」と感じているきょうだいも、遠方からできる役割があります。行政書類の調査・業者の比較検討・オンラインでの話し合いの進行——実務を分担する方法はいくつもあります。「近くにいる人が損をする」構造を放置せず、きょうだい間で役割を可視化することが、長期的な協力体制を維持する鍵です。

頼れる相談窓口一覧

「どこに相談すればよいか分からない」という方のために、主な窓口を整理します。

  • 地域包括支援センター:認知症・介護全般の無料相談窓口。医療機関への連絡・サービス利用の調整・家族支援まで対応。市区町村ごとに設置されています。認知症の整理に関する最初の相談先として最もアクセスしやすい窓口です。
  • 認知症の人と家族の会:同じ状況を経験した家族によるピアサポート。当事者同士で話を聞いてもらえる場です。「誰かに話したい」という段階で活用できます。
  • 司法書士:成年後見制度の申し立て・任意後見契約の作成など法的手続きの専門家。費用・手続きの流れについては直接ご相談ください。
  • 社会福祉協議会:日常生活支援・金銭管理支援(日常生活自立支援事業)などを担います。判断能力が低下してきた段階での財産管理を地域でサポートする仕組みです。
  • 生前整理の専門家・業者:物の整理・遺品整理・実家じまいの実務サポート。地域包括支援センターを通じて紹介を受けることもできます。

まずは地域包括支援センターに「認知症の親の整理について相談したい」と伝えることが、最もハードルの低い入り口です。相談は無料で、一人で抱え込まなくてよい体制が整っています(厚生労働省「認知症に関する相談窓口」)。

認知症の診断が出たら、物の整理と並行して制度の準備も進めておくことが大切です。診断・準備フェーズの全体像は親の認知症介護の準備ガイドで確認できます。判断能力があるうちに手続きを進めたい場合は、任意後見契約とは何か・手続きの流れも参考にしてください。きょうだい間の負担の偏りが気になる方には親の介護・きょうだい間の不公平を解消する方法も役立てていただけます。

まとめ——「今できること」から一歩ずつ

認知症と診断されてから、実家の整理を「どこから始めればよいのか」と途方に暮れる方は多くいます。でも、この記事を読み終えた今、「どの段階で何をすればよいか」の大まかな地図が手元にできたはずです。

大切なのはスピードより順序です。まず本人と「思い入れ箱」を一緒に作ること、次に家族で役割を分担すること、そして地域包括支援センターに一度相談してみること。この三つを最初の一歩として意識してみてください。

医療・法務・税務に関わる判断は、それぞれの専門家(医師・司法書士・弁護士・税理士等)にご相談ください。当センターは生前整理アドバイザーの立場から、物の整理・家族の関わり方・相談窓口への橋渡しをサポートします。

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この記事の監修者

大久保 亮佑

生前整理アドバイザー2級/株式会社Kogera 代表取締役社長

株式会社Kogera「生前整理支援センター ふれあいの丘」運営。実家じまい・遺品整理・生前整理の進め方を、当事者とご家族の目線でわかりやすくお届けしています。監修者プロフィール →

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