親・家族の気持ち

終末期医療の意思表示|ACPと事前指示書の違い

終末期医療の意思表示|ACPと事前指示書

本記事は一般的な情報提供を目的としています。個々の医療判断・治療方針は、必ず担当の医師・看護師・ソーシャルワーカーにご相談ください。

終末期医療の意思表示とは、判断や意思疎通ができなくなったときに備え、受けたい医療と受けたくない医療を家族や医療者に伝えて記録しておくことです。ACP・リビングウィル・事前指示書の違いと、家族と話し合う5つの段階をまとめます。

終末期医療の意思表示を準備している人は1割に満たない

人生の最終段階で受けたい医療について、自分の意思を書面で残している人は日本では1割に満たないのが実情です。厚生労働省「人生の最終段階における医療に関する意識調査 報告書」(平成30年3月/厚生労働省・2026年9月2日確認)では、事前指示書の作成に賛成する人が多数を占める一方、実際に作成している人はごくわずかにとどまることが示されています。

書面がないまま本人が意識を失うと、医療の選択を家族が代わりに決めることになります。「あのとき親の気持ちを聞いておけばよかった」という後悔は、看取りを経験した家族からしばしば聞かれる言葉です。元気なうちに意思を記録しておくことは、本人の安心であると同時に、家族が「決める重さ」を抱え込まないための準備でもあります。

背景には家族構成の変化もあります。核家族化・遠距離居住・おひとりさまの増加により、緊急時に家族全員がすぐに集まれない状況が増えています。だからこそ、元気なうちに本人の意思を記録しておくことが、離れて暮らす家族を守る行為にもなります。意思表示は「諦め」ではなく、自分の価値観や大切にしてきたことを医療の場でも反映させるための、前向きな行動です。

ACP・リビングウィル・事前指示書は「プロセス」と「文書」で区別する

ACPは繰り返し話し合う「プロセス」、リビングウィルは医療の希望を書いた「文書」、事前指示書はその文書に代理人の指定を加えたより広い「文書」と整理すると、3つの関係が分かりやすくなります。呼び方は医療機関や書式によって幅があるため、名称よりも中身で確認してください。

名称

主な中身

更新の考え方

ACP(人生会議)

話し合いのプロセス

価値観・過ごしたい場所・望む生活

変化に合わせて何度でも話し直す

リビングウィル

文書

受けたい医療・受けたくない医療の希望

気持ちが変われば書き直し、日付を添える

事前指示書

文書

医療の希望+代理人の指定

代理人の連絡先が変わったら更新

厚生労働省は、ACPを「もしものときのために、あなたが望む医療やケアについて、前もって考え、繰り返し話し合い、共有する取り組み」と説明し、11月30日を「人生会議の日」として普及を進めています(厚生労働省「人生会議(ACP)」・2026年9月2日確認)。一度決めた答えに縛られる必要はなく、繰り返し更新できることが前提です。

ACPで話し合う内容は医療処置の是非だけにとどまりません。「どこで最期を迎えたいか(自宅・病院・施設)」「大切にしている価値観は何か」「誰にそばにいてほしいか」「どんな状態になっても続けたいことは何か」など、本人の人生観そのものが話し合いの対象になります。

リビングウィルには「心肺蘇生をしてほしくない」「人工呼吸器の装着は望まない」「痛みの緩和は最大限にしてほしい」といった希望を具体的に記します。法的拘束力は日本では現在のところ明確に定められていませんが、医療現場では本人の意思として最大限に尊重されており、日本尊厳死協会などの民間団体が書式を提供しています。事前指示書はこれに加えて、判断できなくなったときに「誰に判断してもらうか」という代理人の指定までを含む、より包括的な文書です。判断能力があるうちに代理人を決める仕組みとしては、法務省が整備する任意後見制度もあり、法的な効力を持たせたい場合は弁護士・司法書士にご相談ください。「どれが正しいか」ではなく「今の自分にできる形から始める」という姿勢が大切で、まず家族との対話(ACP)から始め、内容が固まってきたらリビングウィルや事前指示書に落とし込むという順番が、多くの方にとって無理のない流れです。

延命治療・緩和ケア・在宅医療の3つを知ると話し合いが進む

終末期に検討される医療は、命をつなぐことを主目的とする延命治療、苦痛を和らげる緩和ケア、住み慣れた場所で療養する在宅医療の3方向に整理できます。どれが正しいかではなく、本人がどのような状態で過ごしたいかを基準に、医師と相談しながら考えていきます。延命治療は病気や老衰の進行を遅らせることを目的とした処置全般を指し、代表的なものに次があります。

  • 心肺蘇生(CPR):心臓マッサージ・AED・人工呼吸
  • 人工呼吸器の装着:自力で呼吸できなくなったときの機械による補助
  • 胃ろう・経管栄養:口から食事が取れなくなったときの栄養補給
  • 透析:腎機能が低下したときの人工的な血液浄化

これらの処置の是非は「良い・悪い」で単純に判断できるものではなく、医療の選択は本人の価値観と深く結びついています。正解は一つではないため、担当の医師・看護師と十分に相談しながら検討してください。

緩和ケアは、苦痛を和らげて穏やかに過ごすことを重視する医療で、現在は診断の早い段階から治療と並行して提供されるのが標準的な考え方です。痛み・息苦しさ・不安といった症状を薬や看護でコントロールしながら、本人の望む時間を過ごせるよう支援するのが緩和ケアの役割で、「治療をやめること」ではありません。「最期は自宅で」という希望を持つ方は少なくなく、在宅医療は訪問診療・訪問看護・訪問介護を組み合わせて自宅での療養を支える仕組みです。地域によってサービスの充実度に差はありますが、地域包括支援センターに相談すると近隣の在宅医療チームを紹介してもらえます。在宅を選ぶ場合は、急変時に救急車を呼ぶかどうかの方針を家族と主治医で決めておくと、混乱を防げます。

家族との話し合いは「自分の希望を先に話す」5段階で進める

終末期の話を切り出すときは、いきなり医療処置の是非を尋ねるのではなく、周囲の出来事をきっかけにして、自分の希望を先に話すところから始めると、親も気持ちを言い出しやすくなります。「終末期の話は重くて切り出せない」という声は多く、この「最初の一言」の壁が最も高いと感じる方が少なくありません。焦らず、何回かに分けて進めて構いません。

  1. 「もしも」を自然な話題にする:いきなり「延命治療はどうしたいか」と切り出すと家族が戸惑うことがあります。「テレビで人生会議のことをやっていたね」「親戚の入院の話を聞いて考えさせられたよ」など、自分事でなく周囲の出来事をきっかけにするのが穏やかな入り口です
  2. 自分の希望を先に話す:「お父さんはどうしたい?」と問いかける前に、「私はこう思う」と自分の考えを先に話す方が、親は安心して気持ちを言い出しやすくなります。「私は痛みは取ってほしいけれど、機械に長くつながれるのは望まないかな」という形で、ためらいながら話すのが自然な雰囲気を作ります
  3. 「大切にしていること」を聞く:医療の話を深める前に、「今の生活でいちばん大切にしていることは何か」「どんな状態であれば幸せと感じるか」を聞いてみてください。人生を振り返るノートの考え方がここに生き、本人の価値観が見えてくると医療の選択も自然とその人らしいものになっていきます
  4. 医療の話に具体的に踏み込む:何度かの対話を経て、「胃ろうはどう思う?」「自宅がいいか、施設がいいか」という具体的な話に入ります。答えを決めさせようとせず、「今はこう思っている、変わったらまた話して」という余白を残すことが、ACPが「繰り返し」を重視する理由につながります
  5. 意思を記録し、関係者で共有する:話した内容はエンディングノートや専用の書式に記録し、かかりつけ医・ケアマネジャー・地域包括支援センターにも提出しておくと、緊急時に医療現場で参照されやすくなります

家族の意見が割れたときは抱え込まず、地域包括支援センターのソーシャルワーカーや医療機関の患者相談窓口へご相談ください。親御さんへの切り出し方に迷う場合は、親の終活をどう切り出すかもあわせてご覧ください。

エンディングノートは「気持ち」から書き、医療の希望は6項目で残す

エンディングノートを書き始めるときは、口座や保険といった実務情報から埋めようとせず、大切にしていることや感謝を伝えたい人といった気持ちの記録から始めると、途中で手が止まりにくくなります。生前整理の考え方では「心の整理が先、情報の整理は後」とされ、「今の自分が大切にしていること」「好きな食べ物・音楽・場所」といった項目から書き始めると、書くこと自体が続けやすくなります。思い出の写真を厳選してまとめながら、「このときのことを書こう」と記録するのも一つの方法です。医療の希望は、次の6項目を目安に少しずつ書き足していきます。

  • 延命治療についての考え(どこまでを望むか・望まないか)
  • 最期を迎えたい場所(自宅・病院・施設・その他)
  • 緩和ケア・ホスピスへの希望
  • 医療上の判断を代わりにしてほしい人の名前と連絡先
  • 臓器提供の意思
  • 葬儀・お墓についての希望

書いた日付を添えておくと、気持ちが変わったときに「いつの意思か」が分かります。受診時に「書いてみたものがあるんです」と一言伝えれば医師が把握してくれることも多く、家族には保管場所を伝えておきます。書き方の全体像はエンディングノートとは?書く項目・遺言書との違いで確認できます。

意思表示は本人の安心だけでなく、家族の「決める重さ」も軽くする

終末期において本人が意思表示をしていない場合、家族が「どうするか」を決めなければならず、これは非常に重い負担になります。本人の意思が分からないまま重大な決断を迫られる状況は、家族にとって想像以上に重く、「本人が望んでいたことを知っていたら」という後悔は、その後も家族の心に長く残りやすいものです。逆に、事前に本人の意思が明らかになっていれば、家族は「本人の希望を叶えた」という形で見送ることができます。悲しみそのものは変わらなくても、家族が抱える後悔の質そのものが変わっていきます。

生前整理の根本にある考え方は「より充実して生きるための整理」です。終末期医療の意思表示も、死を考えることが目的ではなく、自分の価値観を言語化し「これからどう生きたいか」を明確にするプロセスといえます。「今日が一番若い」という言葉があります。元気なうちに、自分らしく話せるうちに意思を伝えておくことが、自分と家族への贈り物になります。

いつ頃から準備を始めればよいか迷っている方は終活はいつから始めるべきかも参考になります。

よくある質問

リビングウィルと事前指示書は同じものですか

医療の希望を書いた文書という意味では重なりますが、事前指示書は代理人の指定まで含むより広い文書として使われることが多く、リビングウィルは医療の希望部分を指します。書式ごとに定義の幅があるため、名称ではなく記入項目で確認してください。

エンディングノートに書けば医療現場で使ってもらえますか

エンディングノートは本人の希望を伝える手がかりになりますが、取り扱いは医療機関によって異なります。書いた内容をかかりつけ医やケアマネジャーに共有し、家族にも保管場所を伝えておくことで、緊急時に参照されやすくなります。詳しくは受診先の患者相談窓口にご確認ください。

一度書いた内容を後から変えてもいいですか

変えて構いません。厚生労働省が示すACPの考え方は、病状や気持ちの変化に合わせて繰り返し話し合い、更新していくことを前提としています。書き直したときは新しい日付を添え、家族と医療者にも変更を伝えてください。

親が終末期医療の話を嫌がるときはどうすればいいですか

説得しようとせず、まず自分の希望から話す形に切り替えると、場の緊張がやわらぐことがあります。それでも難しいときは、かかりつけ医やケアマネジャーなど、家族以外の第三者から話題にしてもらう方法もあります。無理に一度で結論を出す必要はありません。

意思表示に法的な効力はありますか

効力の有無や取り扱いは個別の状況によって異なり、この記事だけで判断できるものではありません。医療上の取り扱いは担当医や医療機関の相談窓口へ、法律に関わる点は弁護士など専門家にご相談ください。書式や制度の細部は自治体・医療機関によって扱いが異なるため、迷ったときは早めに確認しておくと安心です。

まとめ

終末期医療の意思表示は、死の準備ではなく、自分の価値観を言葉にして家族と共有するための前向きな準備です。ACPは繰り返し話し合うプロセス、リビングウィルと事前指示書は残しておく文書という区別を押さえると、何から始めるかが見えてきます。

  • 準備している人は1割に満たない。だからこそ早く始めた人ほど選択肢が広い
  • ACP=プロセス、リビングウィル=医療希望の文書、事前指示書=代理人指定を含む文書
  • 延命治療・緩和ケア・在宅医療は、どれが正解かではなく本人の望む過ごし方で選ぶ
  • 話し合いは「自分の希望を先に話す」から始めると穏やかに進む
  • 記録は気持ちから書き始め、日付を添えて医療者・家族と共有する

医療・介護・法律の具体的な判断については、担当の医師・看護師・ソーシャルワーカー・地域包括支援センター・弁護士にご相談ください。一人で抱え込まず、専門家と一緒に考えることが最も安心できる進め方です。認知症への備えを含めて早めに動きたい方は、親が認知症かもしれないと感じたらもあわせてご覧ください。「今日が一番若い」——まずは家族との小さな対話から、一歩を踏み出してみてください。

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編集・運営:株式会社Kogera「生前整理支援センター ふれあいの丘」。 実家じまい・遺品整理・生前整理の進め方を、当事者とご家族の目線でわかりやすくお届けしています。