遺言書の書き方|自筆証書・公正証書・秘密証書の違いと法務局保管制度まで【一般情報】

【免責事項】本記事は遺言書に関する一般的な制度情報をお伝えするものであり、法律上の助言ではありません。遺言書の作成は法律行為であり、個々の状況によって適切な方法が異なります。作成にあたっては、弁護士・司法書士・公証人・行政書士等の専門家に必ずご相談ください。本記事の情報は執筆時点のものであり、法改正により内容が変わる場合があります。
「遺言書を残しておきたいけれど、どう書けばいいのかわからない」「親に遺言書を書いてもらいたいが、どこから始めればいい?」そんな思いを抱えながら、なかなか一歩が踏み出せずにいる方は少なくありません。遺言書は難しいものというイメージがありますが、制度の仕組みを知るだけで、ぐっと身近に感じられるようになります。この記事では、遺言書の種類・要件・法務局の保管制度まで、基礎知識を中立的にご紹介します。個別のご判断は専門家にお任せしつつ、まずは「知る」ところから始めてみましょう。
遺言書はなぜ必要なのか――「争族」を防ぐための備え
相続は、家族の絆を試す場面でもあります。「うちは仲が良いから大丈夫」と思っていても、いざ相続が始まると意見のすれ違いが生じ、関係がぎくしゃくしてしまうケースは珍しくありません。こうした相続トラブルは「争族(そうぞく)」とも呼ばれ、遺産の規模に関わらず起こりうるものです。
遺言書があれば、故人の意思が書面として残ります。誰に何を引き継いでもらいたいか、自分の言葉で伝えることができ、残された家族が難しい判断を一から話し合う負担を和らげることができます。
また、法定相続分(民法で定められた相続人の取り分の目安)は、必ずしも故人の意向や家族の実情に合うとは限りません。長年自宅の介護に携わった配偶者に多くを残したい、事業を引き継ぐ子どもに会社の株を譲りたいといった場合、遺言書がその橋渡し役になります。
遺言書を準備することは、死を急ぐことでも、縁起が悪いことでもありません。家族がこれからも安心して暮らせるよう、元気なうちにできる「思いやりの行動」のひとつです。
遺言書の3種類――自筆証書・公正証書・秘密証書の違い
日本の民法では、遺言書の方式として主に3種類が認められています。それぞれに特徴があり、どれが適しているかは個人の状況によって異なります。以下は一般的な制度の概要であり、どれを選ぶかは専門家とご相談されることをおすすめします。
自筆証書遺言(じひつしょうしょ遺言)
遺言者が遺言書の全文・日付・氏名を自筆(手書き)で記載し、押印して作成する方式です。費用をかけずに自宅で作成できるのが大きな特徴です。一方で、形式の不備があると無効になるリスクがあること、発見されなかったり改ざんされたりする可能性があること、家庭裁判所での検認手続きが原則として必要なことが、一般的に注意点として挙げられます。
なお、2019年(令和元年)の民法改正により、財産目録についてはパソコンで作成したものや通帳のコピー等を添付する方法も認められるようになりました(ただし財産目録の各ページへの署名・押印が必要です)。
公正証書遺言(こうせいしょうしょ遺言)
公証人が遺言者の口述を筆記し、公正証書として作成する方式です。証人2名以上の立会いのもとで作成され、原本が公証役場に保管されます。形式上の不備が生じにくく、家庭裁判所での検認が不要という点が特徴として挙げられます。作成には公証人手数料(目的財産の価額等に応じた算定方法があります)がかかります。
秘密証書遺言(ひみつしょうしょ遺言)
遺言の内容を秘密にしたまま、遺言書の存在だけを公証人に証明してもらう方式です。自筆以外(パソコン等)での作成も可能ですが、実務上の利用頻度は比較的低く、家庭裁判所での検認も必要です。詳しくは公証人にご確認ください。
3種類の主な特徴(概要)
- 自筆証書遺言:費用をかけずに自分で作成できる。形式の不備に注意。検認が原則必要(法務局保管利用時は不要)。
- 公正証書遺言:公証人が関与するため形式の安心度が高い。費用がかかる。検認不要。
- 秘密証書遺言:内容を秘密にできる。利用頻度は少ない。検認が必要。
どの方式が自身の状況に合っているかは、弁護士・司法書士・公証人等の専門家にご相談されることをおすすめします。
自筆証書遺言の一般的な要件(民法968条の概要)
自筆証書遺言の有効性については、民法968条を中心とするルールがあります。以下はその概要です。具体的な記載方法については、専門家にご確認ください。
- 遺言書の全文を遺言者本人が自署(手書き)すること
- 作成日付を自署すること(「吉日」などの記載は無効とされる場合があります)
- 氏名を自署すること
- 押印すること
- 財産目録を添付する場合は、目録の各ページに署名・押印すること
形式上の要件を一つでも欠くと、遺言書全体が無効となる可能性があります。「とりあえず書いてみた」では意味をなさないこともあるため、作成前・作成後に専門家のチェックを受けることを強くおすすめします。
なお、遺言書に記載できる内容(遺言事項)も法律で定められており、何でも自由に記せるわけではない点もご留意ください。
自筆証書遺言書保管制度――法務局で安全に保管する選択肢
2020年(令和2年)7月10日から、法務局(遺言書保管所)に自筆証書遺言書を預ける「自筆証書遺言書保管制度」が始まりました(根拠法:法務局における遺言書の保管等に関する法律)。
法務省の情報によると、この制度には次のような特徴があります。
- 法務局(遺言書保管所)に原本が保管されるため、紛失・改ざんのリスクが大幅に低下する
- 相続開始後、相続人等が「遺言書情報証明書」の交付申請や「遺言書の閲覧」を請求できる
- 法務局で保管された自筆証書遺言書は、家庭裁判所での検認が不要になる
- 申請は遺言者本人が法務局に出向いて行う必要がある(代理申請は不可)
- 保管申請手数料として一件につき3,900円がかかる(2024年時点)
詳しい手続きの流れや必要書類については、法務省「法務局における自筆証書遺言書保管制度について」の公式ページでご確認ください。
自分で書いた遺言書をどこに保管するか——これは意外と見落とされがちなポイントです。この制度の活用を検討する場合も、事前に専門家や法務局の相談窓口でご確認されることをおすすめします。
公正証書遺言の流れと費用の目安
公正証書遺言は、公証役場の公証人が関わるため、手続きにいくつかのステップがあります。以下は一般的な流れの概要です。
- 事前準備・公証役場への相談:遺言の内容や必要書類について公証役場に相談します。相続人の範囲・財産の内容を整理しておくと話がスムーズです。
- 証人2名の確保:公正証書遺言の作成には証人2名が必要です。証人には一定の欠格事由(相続人・受遺者やその配偶者・直系血族など)があります。
- 公証役場での作成:遺言者が公証人の前で遺言の趣旨を口述し、公証人がこれを文書にまとめて読み聞かせ、遺言者・証人が内容を確認して署名・押印します。
- 原本の保管:完成した公正証書遺言の原本は公証役場に保管されます。遺言者には正本・謄本が交付されます。
費用の目安
公正証書遺言の公証人手数料は、遺言で処分する財産の価額に応じて算定されます(公証人手数料令に基づく)。財産総額が多いほど手数料も高くなる仕組みで、数万円から十数万円程度になることが一般的ですが、個別の状況によって大きく異なります。正確な金額は利用する公証役場にお問い合わせください。
また、専門家(弁護士・司法書士等)に依頼して作成をサポートしてもらう場合は、別途報酬が発生します。費用・手続きの詳細については、公証役場や専門家にご確認ください。
相続手続き全般の流れについては、相続手続きの流れと必要書類まとめもあわせてご覧ください。
遺言執行者と遺留分――知っておきたい基礎知識
遺言執行者とは
遺言執行者とは、遺言書の内容を実現するために必要な手続きを行う役割を担う人のことです。相続財産の管理・引き渡し、各種名義変更手続きなどを担います。遺言書のなかで遺言執行者を指定しておくと、相続開始後の手続きが円滑になることがあります。
遺言執行者には、信頼できる個人(相続人や親族など)を指定することも、弁護士・司法書士などの専門家に依頼することも可能です。誰が適切かは個別の状況によって異なりますので、専門家にご相談ください。
遺留分とは
遺留分(いりゅうぶん)とは、一定の相続人(配偶者・子・直系尊属)に民法上保障された最低限の遺産取得分のことです。遺言書でどのように財産を分けると記しても、遺留分を侵害することはできません(ただし、相続人が遺留分を主張するかどうかは任意です)。
遺留分の割合は相続人の構成によって異なります。遺言書の内容が遺留分を侵害していないかどうかの確認も、作成段階で専門家に相談しておくと安心です。
相続に関わる手続きは複雑なものも多く、遺言書だけで完結するわけではありません。相続全体の流れに不安がある場合は、弁護士・司法書士・税理士等の専門家にご相談ください。
遺言書と並行して整えたい「想いを伝える記録」
遺言書は、財産の行方や相続人への指示を法的効力をもって伝えるための書類です。しかしそれだけでは、「なぜこの分け方にしたのか」「家族それぞれへの感謝や想い」までは伝えられないことがあります。
そこで活用していただきたいのが、人生振り返りノートという方法です。生前整理普及協会の5つのメソッドのひとつで、自分の出生から現在までの歩みをエピソードを交えながら書き留めていくものです。好きなもの・大切にしてきたこと・家族への感謝の言葉——こうした「心の記録」は、形式的な遺言書だけでは伝えきれない想いを家族に届ける手段になります。
また、エンディングノートも活用の選択肢のひとつです。ただし、エンディングノートは法的な効力を持ちませんので、遺産の分け方に関わる内容は遺言書で正式に残すことが大切です。エンディングノートの書き方については、エンディングノートの書き方ガイドをご参照ください。
遺言書という「法律の言葉」と、人生振り返りノートという「心の言葉」。この両方が揃ってこそ、家族への想いが完全に伝わるのではないでしょうか。元気なうちに少しずつ整えていくことで、自分自身の気持ちも整理されていきます。
生前整理全般の進め方に迷っている方は、生前整理チェックリストもあわせてご活用ください。
遺言書の作成と合わせて検討したいのが、財産をどのように引き継ぐかという設計全体です。生前贈与の基本と活用法では、遺言と並行して利用できる選択肢を解説しています。また、遺言書を書く前提として親の財産状況を把握しておく必要がある場合は、親の財産を把握する方法と注意点も参考になります。
まとめ――家族のために、まず「知る」ことから
遺言書には、自筆証書・公正証書・秘密証書の3種類があり、それぞれに特徴と手続きの違いがあります。2020年からは法務局の自筆証書遺言書保管制度も始まり、保管面での安心感が増しました。
大切なのは、「完璧な遺言書を一人で書こう」とがんばるより、専門家のサポートを得ながら確実に形にしていくことです。弁護士・司法書士・公証人・行政書士といった専門家は、遺言書の形式チェックから公証役場での手続き支援まで、さまざまな段階でサポートしてくれます。
また、遺言書と並行して、人生振り返りノートやエンディングノートで家族への想いを言葉にしておくことも、残された家族にとって何より大きな贈り物になります。「今日が一番若い」という言葉のとおり、整理を始めるのに早すぎることはありません。
まずは制度を知り、信頼できる専門家に相談する——その一歩を踏み出すことで、ご自身と家族の未来を守ることにつながります。遺言書の作成・内容に関しては、必ず弁護士・司法書士・公証人等の専門家にご相談ください。