相続・死後の手続き

配偶者居住権とは|2020年新制度の活用判断と『家族で話し合うべき5論点』

配偶者居住権とは|2020年新制度の活用

この記事は一般的な制度情報の提供を目的としています。個別の相続手続き・税額計算・遺産分割の具体的な判断については、弁護士・司法書士・税理士・法務局へご相談ください。

「配偶者が先立つことになった後も、ずっとこの家に住み続けられるのだろうか——」そんな不安を抱えている方へ、2020年4月に施行された配偶者居住権という制度をわかりやすく解説します。仕組み・設定方法・登記・注意点・家族で話し合うべき論点まで整理しました。制度を知ることが、家族で備える最初の一歩になります。

配偶者居住権とは(2020年4月施行・残された配偶者の住まいを守る権利)

2020年4月に生まれた「住む権利」を独立させた制度

配偶者居住権は、2018年の民法改正(相続法改正)により新設され、2020年4月1日から施行された制度です。法務省は「残された配偶者の居住権を保護するための方策」として、この制度の意義を公式に説明しています(法務省:残された配偶者の居住権を保護するための方策)。

従来の相続では、自宅の所有権全体がひとつの相続財産として扱われていました。そのため、残された配偶者が自宅の所有権を相続すると、その分だけ預貯金などの生活資金を相続できる割合が小さくなるという問題がありました。配偶者居住権はこの課題を解決するために生まれた制度です。

具体的には、自宅を「住む権利(配偶者居住権)」と「所有権(負担付き)」に分けて相続できるようになりました。配偶者は住む権利だけを受け取り、所有権は子どもが相続するという形が可能になります。これにより、配偶者は住まいも確保しながら、預貯金などの生活資金も受け取れる可能性が広がりました。

制度の対象は、被相続人(亡くなった方)が所有していた建物に、相続開始時点で居住していた配偶者です。内縁関係は対象外とされています。

配偶者居住権と配偶者短期居住権の違い

配偶者の居住を守る制度には「配偶者居住権(長期)」と「配偶者短期居住権」の2種類があります。両者の主な違いを整理します。

  • 配偶者短期居住権:相続開始と同時に自動的に発生します。遺産分割が終わるまでの間(最低6か月)、無償で住み続けることができる権利です。登記はできず、相続税評価はゼロとされています(国税庁FAQ参照)。短期的な「住まいのつなぎ」として機能します。
  • 配偶者居住権(長期):遺産分割協議・遺言・家庭裁判所の審判などによって取得します。存続期間は終身(または合意した期間)まで設定できます。登記が可能であり、相続税評価の対象となります。

「短期居住権は"つなぎ"、配偶者居住権は"長期の住まい保護"」と整理すると、両者の違いが理解しやすくなります。

配偶者居住権の設定方法(遺産分割協議・遺言・家庭裁判所審判)

配偶者居住権を設定するルートは、主に次の4つがあります。

  1. 遺産分割協議:相続人全員の合意によって配偶者居住権を取得する、最も一般的な方法です。相続発生後に相続人が話し合い、配偶者が居住権を取得することで合意します。
  2. 遺言:被相続人が生前に遺言書へ「配偶者に配偶者居住権を遺贈する」旨を記載しておく方法です。遺産分割協議を経ずに設定できるため、相続人間の対立が懸念される場合には有効な選択肢のひとつとされています。遺言書の作成については、公証役場・弁護士・司法書士にご相談ください。
  3. 死因贈与:被相続人が生前に「亡くなった後に配偶者居住権を贈与する」という契約を結んでおく方法です。
  4. 家庭裁判所の審判:遺産分割調停や審判の手続きの中で、家庭裁判所が配偶者居住権を取得させる審判を下す方法です(裁判所:遺産分割調停参照)。

生前にできる備えとしては、遺言書に配偶者居住権の設定を盛り込んでおく方法が有力です。ただし、遺言書の具体的な作成方法・文言については、公証役場・司法書士・弁護士にご相談ください。

また、配偶者居住権の取得には「被相続人が所有していた建物であること」「相続開始時に配偶者がその建物に居住していたこと」などの要件があります。建物の一部のみ被相続人名義である場合など、要件を満たさないケースもありますので、詳細は司法書士または弁護士にご確認ください。

登記の必要性と費用

配偶者居住権を取得した後は、速やかに法務局で登記することが強くお勧めされています。法律上、登記は義務ではありませんが、登記をしておかないと第三者に対して権利を主張できないという重大なリスクがあります。

具体的には、配偶者居住権が設定されている建物の所有権(子など)が第三者に売却された場合、登記がなければ新しい所有者に対して「住み続ける権利がある」と主張できなくなる可能性があります。安心して住み続けるためには、登記は実質的に必要な手続きといえます。

登記にかかる主な費用の目安は次のとおりです。

  • 登録免許税:建物の固定資産評価額の0.2%とされています(目安)。
  • 司法書士報酬:依頼する事務所・地域・建物の状況によって異なりますが、数万円程度が目安とされています。

登記の手続きは司法書士への依頼が一般的です。法務局の窓口でも相談を受け付けていますので、具体的な手続きの流れについてはお近くの法務局にお問い合わせください。

相続税評価の考え方(国税庁の概要のみ・個別計算は税理士へ)

配偶者居住権を取得した場合、その権利は相続税の評価対象となります。国税庁は「No.4666 配偶者居住権等の評価」として評価方法の概要を公開しています(国税庁 No.4666 配偶者居住権等の評価)。

評価の基本的な考え方としては、建物の評価額から「配偶者居住権の価値」を算出し、残りの「負担付き所有権の価値」と分けて計算する仕組みとされています。配偶者居住権の評価額は、配偶者の年齢(存続年数の長さ)や建物の耐用年数などに影響されます。一般的に、配偶者が若いほど存続年数が長くなるため、評価額が高くなる傾向があります。

一方、配偶者居住権は配偶者が亡くなった時点で消滅します。消滅した権利については相続財産に加算されないとされているため、二次相続(配偶者が亡くなった後の相続)への影響という観点から注目されることがあります。

ただし、配偶者の年齢・建物の評価額・相続財産全体の状況によって、実際の税負担への影響は大きく異なります。「設定すれば必ず節税になる」という単純な話ではなく、個別のシミュレーションが欠かせません。具体的な相続税の計算・判断については、必ず相続専門の税理士にご相談ください。

配偶者居住権を設定すべきケース/向かないケース

配偶者居住権は「設定すれば誰でも安心」という制度ではありません。家族の状況・住まいへの希望・財産構成によって、有効に機能するケースとそうでないケースがあります。中立的な視点で整理します。

設定が有効に働きやすいケース

  • 子どもが前妻(前夫)の子で、配偶者と血縁関係がない場合:配偶者と子どもの関係が良好でないと、遺産分割の場で「自宅を売却したい」という意向が子どもから出ることがあります。配偶者居住権を設定しておくことで、住まいを法的に守る手段になります。
  • 自宅以外の財産が少なく、配偶者の生活資金が心配な場合:自宅の所有権全体を相続すると、生活に必要な預貯金の相続分が少なくなります。配偶者居住権(評価額の一部)だけを受け取ることで、住まいの確保と生活資金の確保を両立しやすくなる可能性があります。
  • 配偶者が比較的若く(60代前半など)、住み続ける期間が長く見込まれる場合:存続年数が長いほど居住権の評価額も高くなり、財産分けの効果が出やすいとされています。
  • 配偶者が「住み慣れた家に住み続けたい」という意思が明確な場合:本人の希望が明確であることが、制度を活かす前提条件になります。

設定を慎重に考えるべきケース

  • 将来的に施設入所や住み替えを検討している場合:配偶者居住権が設定されると、自宅の売却には居住権者と所有者の合意が必要になります。後から「やはり施設に移りたい、自宅を売りたい」と思っても、手続きが複雑になる可能性があります。
  • 子どもとの関係が良好で、遺産分割の話し合いが柔軟にできる場合:信頼関係があれば、配偶者居住権という法的な制度を設定しなくても、住まいを守ることができるケースがあります。
  • 配偶者がすでに高齢(80代以上など)で、存続年数が短く評価額が低くなりやすい場合:登記費用や手続きの手間と比較して、財産分けの効果が薄くなる可能性があります。
  • 自宅が共有名義であるなど、制度の要件を満たさないケースもある:設定できるのは被相続人が所有していた建物に限られるため、事前に司法書士への確認が必要です。

「設定すべきか否か」は、家族の状況によって答えが異なります。自分たちのケースで有効かどうかは、相続に詳しい弁護士・司法書士・税理士にご相談のうえ判断されることをお勧めします。

「施設入所・認知症後の空き家問題」配偶者居住権の落とし穴

配偶者居住権を巡る問題として、他のサイトではほとんど触れられていないテーマがあります。それが「配偶者が施設入所・認知症になった後の空き家問題」です。

配偶者居住権は、配偶者が実際にその建物に住まなくなっても、原則として消滅しません。配偶者が存命である限り、権利は続きます。これが思わぬ問題を生むことがあります。

たとえば、配偶者が認知症を発症して有料老人ホームに入居することになった場合を考えてみましょう。このとき——

  • 建物の所有権を持つ子どもは、自由に自宅を活用・売却できない
  • 配偶者(居住権者)が「住まない」状態であっても、居住権は存続する
  • 空き家のまま固定資産税・管理費だけが発生し続ける
  • 居住権を消滅させるには、配偶者(または成年後見人)と所有者の合意が必要になる

認知症が進行して意思能力が低下していると、本人との合意形成が難しくなります。成年後見制度を利用すると手続きは可能になりますが、後見人が選任されるまでに時間と費用がかかります。こうして「誰も住まない自宅に居住権だけが残る」という状態が長期間続くことがあります。

この問題は、生前整理の支援をする中でも「元気なうちに想定しておけばよかった」という声として聞かれます。配偶者居住権を設定するかどうかを検討する際には、「将来、配偶者が住まなくなった場合にどうするか」というシナリオを家族で事前に話し合っておくことが、後悔を防ぐ上で大切です。

住まいを巡るこうした問題は、実家じまいや空き家対策とも深く結びついています。元気なうちに家族で話し合っておくことが、最大の備えになります。

家族で話し合うべき5つの論点(協会5メソッド転用)

配偶者居住権は「制度を知ること」より「家族で話し合うこと」が本質的な意味を持つ制度です。以下の5つの論点は、制度を使うかどうかにかかわらず、一度家族で確認しておくと安心です。

論点1:配偶者本人が「この家に住み続けたいか」の意思

最も大切なのは、配偶者本人の意思です。「住み慣れた家に終身住み続けたい」「子どもの近くに引っ越すことも考えている」「将来は施設も選択肢に入れたい」——本人の希望は、家族が思い込んでいるものとズレていることが少なくありません。

本人の「これからの住まいへの希望」を言語化しておくことで、家族の話し合いがスムーズになります。生前整理普及協会が推奨する人生振り返りノートの活用もひとつの方法です。「これからの住まいについて、どこでどう暮らしたいか」を書き出すことで、本人の希望が整理されます。記入例のイメージとしては「この家に住み続けたい。子が近くに住むなら転居も考えられる」「庭のある一戸建てにこだわりはない。介護が必要になれば施設も考える」といった言葉から始めると書き出しやすいとされています。

国土交通省も「住まいのエンディングノート」という冊子を公開しており、住まいに関する希望の整理に活用できます(国土交通省:住まいのエンディングノート)。「制度を知る→自分の希望を整理する→家族に伝える」という3段階を踏むことで、配偶者居住権の判断もより現実的に議論できるようになります。エンディングノートの書き方全般については、エンディングノートとは何か・書き方ガイドも参考にしてください。

論点2:子世代が「将来の自宅活用」をどう考えているか

自宅の所有権を相続する子ども側にも、将来の考えがあります。「親が住まなくなったら売却したい」「兄弟で相続したら維持費の分担が問題になる」といった本音は、親の前では言い出しにくいことも多いです。お互いの考えを事前に共有しておくことが、相続後のトラブルを防ぐことにつながります。

遺産分割の進め方や相続の全体像を把握したい方は、親の財産を把握する方法の記事もあわせてご覧ください。

論点3:自宅以外の財産で配偶者の生活費が賄えるか

配偶者居住権を設定する意義のひとつは、住まいの確保と生活資金の確保を両立することです。自宅の評価額・預貯金・年金収入など、配偶者が生活を維持できる財産全体を把握しておくことが判断の前提になります。財産の全体像を家族で共有しておくと、相続発生後の話し合いが大きく円滑になります。

論点4:配偶者の健康状態・将来の介護シナリオ

前述の「落とし穴」セクションでも触れましたが、配偶者の将来の健康状態は住まいの選択に直結します。現在は自宅生活が可能でも、数年後に在宅介護が難しくなることも想定されます。「その時は施設を検討する」「子どもと同居する」など、介護シナリオをあらかじめ家族で話し合っておくことが、配偶者居住権の設定可否の判断にも影響します。医療・介護の判断については、かかりつけ医やケアマネージャーにもご相談ください。

論点5:もし配偶者が施設入所した場合の対応合意

「配偶者が施設に入所することになったとき、自宅をどうするか」を事前に合意しておくことが重要です。売却するのか、子どもが活用するのか、一定期間空き家のままにするのか。この合意がなければ、配偶者居住権が設定されていると手続きが複雑になります。施設入所の可能性を念頭に置いた上で、設定するかどうかを検討することが大切です。

家族信託という制度を活用すると、認知症後も財産管理の柔軟性を保ちやすいとされています。詳しくは家族信託の基礎知識もご参照ください。

まとめ:配偶者居住権は「使う前の話し合い」が最大の備え

配偶者居住権は、残された配偶者の住まいを守るために2020年に新設された制度です。自宅を「住む権利」と「所有権」に分けることで、住まいの確保と生活資金の確保を両立しやすくなる可能性があります。一方で、施設入所後の空き家問題・売却できなくなるリスク・評価計算の複雑さといった注意点もあります。

この制度が最大限に機能するのは、家族全員が状況を把握し、事前に話し合いを重ねた上で設定を判断した場合です。「制度があるから設定すれば安心」ではなく、家族の状況・配偶者の意思・将来の介護シナリオを踏まえた判断が欠かせません。

設定の手続き・登記については司法書士・弁護士に、相続税への影響については税理士に、それぞれご相談ください。また、手続き面の情報はお近くの法務局でも確認できます。

制度の名前が難しくても、「残された配偶者の住まいをどう守るか」という問いは、家族の数だけ答えが異なります。今日この記事が、その話し合いを始めるきっかけになれば幸いです。生前整理・相続の全体像については、生前整理・相続の全体ガイドもあわせてご覧ください。

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この記事の監修者

大久保 亮佑

生前整理アドバイザー2級/株式会社Kogera 代表取締役社長

株式会社Kogera「生前整理支援センター ふれあいの丘」運営。実家じまい・遺品整理・生前整理の進め方を、当事者とご家族の目線でわかりやすくお届けしています。監修者プロフィール →

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