認知症の親の預金が引き出せない時の対処法
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認知症で親の口座が凍結されると、原則として成年後見人が選任されるまで家族は引き出せません。ただし医療費・介護費については、全国銀行協会の考え方にもとづき銀行が親族の代理出金に応じる余地があります。この記事では凍結の仕組み、今すぐ困ったときの相談先、親の状態別に選べる4つの制度を比べます。
口座が凍結されると、成年後見人の選任まで家族は引き出せなくなる
銀行は名義人本人の判断能力が著しく低下していると把握した時点で、口座の取引に制限をかけることがあります。窓口での不自然なやりとり、家族からの申し出、後見の申立てが行われたことなどが契機になり、対応は各行の判断で決まります。いったん制限がかかると、原則として成年後見人が選任されるまで第三者による引き出しはできません。
銀行が取引を制限するきっかけと、その後に起きること
取引制限のきっかけは大きく3つあります。ひとつ目は、窓口や電話でのやりとりで本人の受け答えに一貫性がないと銀行が判断した場合です。ふたつ目は、家族が「親が認知症と診断された」と銀行に申し出た場合です。3つ目は、家庭裁判所への後見開始の申立てが行われたことが銀行に伝わった場合です。制限の基準や範囲が法律で一律に決まっているわけではなく、各金融機関の内規にもとづいて判断されます。
成年後見の申立てから選任まで、家庭裁判所の手続きには数か月かかることがあります(参考:裁判所「成年後見制度とは」、裁判所/2026年9月2日確認)。介護施設の月額費用や医療費の支払いが必要になる時期と、口座が使えなくなる時期が重なりやすい点が、この問題の深刻さの理由です。入居一時金のようにまとまった支出が生じる場面ほど、家計への影響は大きくなります。
認知症による凍結は、死亡後の凍結とは別の問題
亡くなった後の口座凍結とは性質が異なります。相続が発生した後であれば、遺産分割協議書や相続人全員の同意書といった書類をそろえることで解除の手続きに進めます。一方、本人が存命のまま判断能力を失った場合は、成年後見制度を使わなければ解除できないケースが多く、家族が代わりに手続きを進める余地が限られます。認知症を理由とする凍結のほうが、解除までの時間も費用もかかりやすいと理解しておくと、準備の優先順位を決めやすくなります。
医療費・介護費については、親族の代理出金に応じる余地がある
全国銀行協会は2021年2月18日、認知判断能力が低下した顧客や代理の方と金融取引を行う際の参考として「金融取引の代理等に関する考え方」を公表しました。本人の医療費・介護費など、本人の利益になることが明らかな使途については、所定の確認を経たうえで親族等による代理での出金に応じることを検討できる、という整理が示されています(出典:全国銀行協会、2021年2月18日公表資料/2026年9月2日確認)。
ただし同協会は、この考え方が会員各行に一律の対応を求めるものではなく、個別の状況によって異なる対応が取られる場合があることを明記しています。「この書類を持参すれば引き出せる」と言い切れる仕組みではありません。今まさに支払いが迫っているのであれば、取引銀行の窓口に出向き、本人の医療・介護費用のための出金であることと使途の裏づけ(請求書や領収書)を示しながら相談してください。
銀行窓口で求められることが多い確認事項
求められる書類は金融機関ごとに異なりますが、実務では次のような確認が行われることがあります。あらかじめ手元にそろえておくと、窓口でのやりとりが短くなります。
- 本人と相談者の関係が分かる書類(戸籍謄本、健康保険証の被扶養者欄など)
- 窓口に来た家族自身の本人確認書類
- 使途を裏づける請求書・領収書(施設利用料、医療費、介護サービス費など)
- 本人の状況を説明できる資料(診断書、介護保険被保険者証など)
対応は各行・各支店で判断が分かれることがあります。ひとつの窓口で難しいと言われた場合でも、親が取引している別の金融機関に相談する、支店の担当者を通じて本部の判断を仰いでもらうといった選択肢が残ります。
選べる制度は、親の判断能力の段階によって決まる
認知症対策で最も見落とされやすいのは、使える制度が時間とともに減っていくことです。家族信託と任意後見はいずれも、本人に判断能力があるうちにしか契約できません。以下は財産管理の観点からみた目安であり、症状の評価は医師の専門領域です。
親の状態 | 選べる制度 | この段階の要点 |
|---|---|---|
初期(もの忘れはあるが自分で意思決定できる) | 代理人カード/任意後見契約/家族信託 | 選択肢が最も多い時期。3つとも検討できる |
中期(契約能力が不安定になってきた) | 銀行窓口への相談/法定後見の申立て準備 | 家族信託・任意後見の新規契約は困難になり得る |
後期(意思疎通が難しい) | 法定後見(成年後見人の選任)のみ | 申立てから選任まで数か月かかることがある |
「もう少し後で考えよう」と先延ばしにしている間に、取れる対策が法定後見だけになる例は少なくありません。判断能力が確かなうちに、かかりつけ医と相談しながら方針を決めておくと、家族の選択肢が残ります。
選択肢が減る前に、財産の全体像を家族で共有する
親の財産の全体像を家族が把握しておくことは、どの制度を選ぶにしても前提になります。取引銀行の名前と支店、通帳の保管場所、普通預金以外の資産の有無をエンディングノートに書き残しておくだけで、後の手続きの負担は大きく変わります。生前整理では「今日が一番若い」という言葉を大切にしますが、これは急かす言葉ではなく、元気で判断力がある今日という日が、家族にとって最も多くの選択肢を持てる日だという意味です。
代理人カード・任意後見・家族信託・成年後見の4制度を比べる
認知症と預金管理に関わる制度は4つあり、使える時期とできることが異なります。「どれが一番よいか」ではなく「今の親の状態で選べるのはどれか」という順序で見てください。費用はいずれも目安であり、財産の規模や依頼先で変わります。
制度 | 契約できる時期 | できること | 費用の目安 | 限界 |
|---|---|---|---|---|
代理人カード | 本人が元気なうち | 日常的な引き出し | 金融機関の規定による | 口座が凍結されると使えなくなる。引き出し上限が低い |
任意後見 | 判断能力があるうち | 財産管理と医療・介護の契約(身上監護) | 公証役場の費用は1万〜2万円台が目安(専門家報酬は別) | 判断能力の低下後に監督人選任の申立てが必要 |
家族信託 | 判断能力があるうち | 認知症発症後も財産の管理・処分を継続 | 初期費用50万〜100万円程度が目安 | 身上監護には対応しない。設計に専門家が必須 |
成年後見(法定後見) | 判断能力を失った後でも可 | 財産の保全と生活支援 | 専門職が就任すると月額報酬が継続 | 財産の積極的な活用はできず、原則として途中でやめられない |
代理人カードは、日常の支払いをつなぐ暫定的な手段
代理人カード(代理人キャッシュカード)は、親が元気なうちに窓口で家族を代理人として登録し、本人の口座から引き出せるようにする仕組みです。手続きが比較的簡単で、日々の生活費やデイサービス費用など少額の支払いに向いています。一方で、次の制約があります。
- 口座が凍結された後は代理人カードも使えなくなる
- 1日あたりの引き出し上限が低く設定されている金融機関が多い
- 登録できる代理人の人数や続柄に制限がある場合がある
- 施設入居一時金のようなまとまった資金移動には対応しにくい
- 財産の運用や不動産の処分には使えない
取扱いの有無や上限額は金融機関ごとに異なるため、申し込む前に取引銀行へ確認してください。代理人カードを申請できる時期は、任意後見や家族信託を検討できる時期とも重なります。両方を並行して進めておくと、凍結後に手段がなくなる事態を避けられます。
任意後見は、後見人を親自身が選べる制度
任意後見制度は、親が元気なうちに公証役場で契約を結び、判断能力が低下した後に家庭裁判所が任意後見監督人を選任することで効力が生じる制度です(参考:法務省「成年後見制度・成年後見登記制度」、法務省/2026年9月2日確認)。特徴は次の4点です。
- 財産管理だけでなく、医療・介護の契約(身上監護)にも対応できる
- 誰を後見人にするかを親自身が決められる点が、法定後見と大きく異なる
- 公証役場の費用は1万〜2万円台が目安。司法書士等に依頼する場合は報酬が別途発生する
- 契約しただけでは効力が生じず、判断能力が低下した時点で監督人選任の申立てが必要
家族信託は、発症後も財産の管理・処分を続けられる
家族信託は、親(委託者)が元気なうちに信託契約を結び、財産の管理・処分の権限を子(受託者)に移す仕組みです。認知症を発症した後も、受託者である子が信託財産の管理と支出を続けられる点が最大の特徴です。
- 発症後も財産の管理・活用を続けられる
- 信託専用の口座が別に設けられるため、凍結の影響を受けにくい
- 身上監護には対応しないため、任意後見と組み合わせる例が多い
- 初期費用は司法書士・公証人の費用を含め50万〜100万円程度が目安で、財産の規模や内容によって大きく変わる
- 契約設計には司法書士・弁護士の関与が欠かせない
家族信託は柔軟性が高い反面、設計の複雑さと初期費用の大きさが負担になります。税務上の取扱いも論点になるため、司法書士・弁護士・税理士に一体で相談してください。
成年後見(法定後見)は、判断能力を失った後の唯一の手段
法定後見は、判断能力が失われた後でも利用できる唯一の制度です。家庭裁判所が後見人を選任し、本人の財産保全と生活支援にあたります(参考:裁判所「成年後見制度とは」)。
- 判断能力を失った後でも申立てができる
- 弁護士・司法書士などの専門職が後見人に選任された場合、月額の報酬が継続して発生する
- 財産の積極的な活用や投資はできず、本人の生活・医療・介護のための支出が原則
- 申立てから選任まで数か月かかることがある
- いったん始まると、本人の判断能力が回復しない限り原則として終了しない
制度ごとの詳細は任意後見契約とは、家族信託の基本と注意点、成年後見制度のデメリットで整理しています。制度の選択と契約内容の設計は、司法書士・弁護士・税理士へご相談ください。
今日からできる準備は、親の取引先と保管場所の共有
制度を選ぶ前に、家族で財産の全体像を共有しておくと、その後の手続きが大きく変わります。取引先が分からないまま後見の申立てに進むと、財産目録の作成だけで時間を取られるためです。次の4点を親と一緒に確認するところから始めてください。
- 取引している銀行・信用金庫・郵便局の名前と支店
- 通帳やキャッシュカードの保管場所
- 定期預金・投資信託など普通預金以外の資産の有無
- 住宅ローンやカードローンなど借入れの有無
口座番号や暗証番号そのものは書き残さず、銀行名と保管場所だけをエンディングノートに残す形が安全です。通帳や証券が見つからない場合の探し方は親の通帳・保険証券の探し方で解説しています。
任意後見契約を結ぶまでの4ステップ
任意後見は親の判断能力があるうちにしか締結できないため、かかりつけ医に相談しながら早めに動くことが大切です。契約までの流れは大まかに次の通りです。
- 後見人になる人(子・信頼できる親族・専門家)を選ぶ
- 契約に盛り込む内容を司法書士等と相談しながら決める
- 公証役場で公正証書として契約を締結する
- 判断能力が低下した時点で、家庭裁判所に任意後見監督人の選任を申し立てる
家族信託の相談前に整理しておく3点
家族信託は設計に時間がかかるため、「そろそろかもしれない」と感じた段階で相談を始めると間に合いやすくなります。司法書士・弁護士に相談する前に、次の3点を整理しておくと打ち合わせが短く済みます。
- 信託したい財産の種類(自宅などの不動産、預貯金、有価証券など)
- 受託者を誰にしたいか、受益者を誰にするか
- いつから信託を始めたいか、親が希望する暮らし方はどうか
家族信託と任意後見は対立する制度ではなく、役割が異なります。財産の管理・処分は家族信託、医療や介護の契約は任意後見というかたちで組み合わせる例も多くあります。
親に話を切り出すときは、お金ではなく「家族の安心」から入る
「財産を管理させてほしい」ではなく「急に何かあったとき家族が困らないように、一緒に確認しておきたい」という言い方に変えるだけで、受け取られ方は大きく変わります。お金や将来の話は、親が「自分が信頼されていない」「先の短い話をされている」と感じやすい話題だからです。順番と言葉を少し工夫すると、会話の入り口が開きます。
工夫1:親自身のための制度だと伝える
任意後見も家族信託も、親自身が判断能力を失ったときに、親の意思を尊重した形で財産を守るための制度です。「子どもが管理したい」ではなく「元気なうちに親が自分で決めておける」制度であることを、時間をかけて伝えてください。制度の目的が親自身の安心にあると分かると、警戒心はやわらぎます。
工夫2:人生振り返りノートを会話の入り口にする
生前整理では、お金の話から始めるのではなく、自分の歩みを振り返り、好きなものを書き出すところから始めます。人生振り返りノートを親と一緒に書くと、大切にしてきたものやこれからどう暮らしたいかが自然に語られます。そこから「通帳や大切なものの場所も、ついでに確認しておこうか」という流れが生まれやすくなります。
工夫3:思い出箱やベストショットアルバムで対話を深める
思い出の品を一箱に集める「思い出箱」、お気に入りの写真を選ぶ「ベストショットアルバム」は、生前整理の実践メソッドです。一緒に手を動かすうちに過去の思い出や価値観を共有でき、「この通帳はいつから使っているの」といった自然な会話から財産の話題へ橋渡しできます。心が整うと情報の整理も進む、というのが生前整理の考え方です。
工夫4:兄弟姉妹全員が同じ情報を持つ場をつくる
財産管理の話を特定の一人だけで進めると、「あの子だけが知っている」という家族間の摩擦が生まれることがあります。親戚が集まる機会やビデオ通話も使いながら、兄弟姉妹全員が同じ情報を共有した状態で進めると、介護の分担でも相続の場面でも説明がしやすくなります。
今日できることをひとつ選ぶ――「今日が一番若い」
生前整理普及協会の理念に「今日が一番若い」という言葉があります。急がせる言葉ではなく、今日という日がこれからの選択肢を最も多く持てる日だ、という意味です。全部を一度に決める必要はありません。次の4つのうち、ひとつだけでも進めば十分な前進です。
- 親がどの銀行と取引しているかを確認する
- 通帳・キャッシュカードの保管場所を親と一緒に確認する
- 地域包括支援センターや司法書士の相談窓口を調べる
- エンディングノートに銀行名だけでも書き残す
専門家に相談する前の情報整理には、生前整理チェックリストも活用してください。今の親の状態で何ができるかを把握できているだけで、相談の場でのやりとりははるかにスムーズになります。財産の見える化は終活の準備ではなく、家族がこれからより安心して暮らすための生前整理の一部です。
よくある質問
親の口座から介護費用を引き出したいのですが、すぐできますか
取引銀行の窓口で、本人の医療・介護費用のための出金であることを説明し、請求書などの裏づけを示して相談してください。対応は各行・各支店で異なり、確約はできません。
代理人カードがあれば口座凍結後も引き出せますか
口座が凍結された後は代理人カードも使えなくなります。日常的な少額の引き出しを補うための暫定的な手段と位置づけ、任意後見や家族信託の準備と並行して使うのが現実的です。
家族信託と任意後見はどちらかを選ぶものですか
役割が異なるため併用されることがあります。財産の管理・処分は家族信託、医療や介護の契約は任意後見という組み合わせです。設計は司法書士・弁護士にご相談ください。
すでに認知症が進んでいる場合はどうすればよいですか
判断能力を失った後に選べるのは法定後見です。家庭裁判所への申立てが必要になるため、地域包括支援センターまたは司法書士・弁護士に相談しながら進めてください。
認知症と診断されたら、必ず口座は凍結されますか
診断そのもので自動的に凍結されるわけではありません。銀行が本人の判断能力の低下を把握した時点で制限がかかる運用のため、時期も範囲も金融機関によって異なります。
まとめ
- 口座が凍結されると、原則として成年後見人の選任まで家族は引き出せない
- 医療費・介護費については、全国銀行協会の考え方にもとづき銀行が代理出金に応じる余地がある。ただし一律の対応ではない
- 家族信託と任意後見は、親に判断能力があるうちにしか契約できない
- 4制度は「使える時期」「できること」「限界」が異なる。今の親の状態を起点に選ぶ
- 今日できるのは、取引銀行名と通帳の保管場所を家族で共有すること
本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別の法律・税務・医療判断の根拠となるものではありません。制度の選択や手続きは、司法書士・弁護士・税理士・地域包括支援センター・銀行窓口へご相談ください。認知症の診断と症状の評価は医師の専門領域です。
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