遺言信託とは|信託銀行のサービスと家族信託との違い

「遺言信託」は、信託銀行などに遺言書づくりの相談から保管、亡くなった後の遺言の執行までを任せるサービスの名前として使われています。一方で、信託法には「遺言による信託」という別の仕組みがあり、言葉だけでは中身を取り違えやすいところです。サービスの中身と費用の考え方、遺言執行者や家族信託との違いを、法令と信託協会の公表情報で整理しました。
遺言信託とは、信託銀行等の相続サービスの名前
遺言信託とは、信託銀行等が遺言書作成の相談、遺言書の保管、遺言の執行まで、相続に関する手続きを引き受けるサービスです(出典:一般社団法人信託協会「遺言信託」、2026年9月30日確認)。ただし「遺言信託」という言葉には2つの意味があります。
「遺言信託」の意味 | 中身 | 主な根拠 |
|---|---|---|
信託銀行等のサービス名 | 遺言書の作成相談・保管・執行の組み合わせ。信託銀行等が遺言執行者になる | 民法1006条・1012条、兼営法1条1項4号 |
信託法上の「遺言による信託」 | 遺言で財産を特定の者に託し、目的に従って管理・処分させる | 信託法3条2号 |
信託協会の信託用語辞典も、遺言信託を「遺言により信託を設定すること、または信託銀行の提供する遺言書の作成・保管・執行に関するサービス」と2通りに説明しています。以下、とくに断らない限り、サービスのほうを「遺言信託」と呼びます。
金融機関は内閣総理大臣の認可を受けて信託業務を営むことができ、その業務には「財産に関する遺言の執行」が含まれます(金融機関の信託業務の兼営等に関する法律1条1項4号。出典:e-Gov法令検索)。信託業務を兼営する金融機関の一覧は、金融庁が免許・許可・登録等を受けている業者一覧で公表しています。
信託協会の「信託統計便覧」によると、信託銀行等が保管する遺言書は2025年度末(2026年3月末)で221,102件、うち遺言の執行まで引き受ける「執行付」は204,365件でした。2015年度末の108,623件から、10年で約2倍に増えています(出典:信託協会「遺言関連業務取扱状況」)。
信託法の「遺言による信託」とは仕組みが違う
信託法の「遺言による信託」は、遺言で財産を特定の者に託し、その者に一定の目的に従った管理や処分をさせる方法で、サービスとしての遺言信託とは別物です。信託法3条は、信託の方法を信託契約(1号)、遺言(2号)、自己信託(3号)の3つと定めています(出典:e-Gov法令検索「信託法」)。
サービスとしての遺言信託で信託銀行等が担うのは「遺言書保管者兼遺言執行者」の役割です。遺言執行者は、遺言の内容を実現するため、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を持ちます(民法1012条1項。出典:e-Gov法令検索「民法」)。信託協会の用語辞典も、遺言関連業務を「信託業以外の業務」である併営業務の一つに挙げています。
比べる点 | 遺言信託(サービス) | 遺言による信託 |
|---|---|---|
財産を扱う人 | 遺言執行者(信託銀行等) | 受託者(遺言で託された者) |
財産の行き先 | 遺言どおり相続人などに引き渡して執行が終わる | 受託者が信託の目的に従って管理・処分を続ける |
遺言信託の流れ|公正証書遺言の作成から執行まで
信託協会の説明では、遺言信託の手続きは、相続が始まる前の準備と、相続が始まった後の遺言執行の2段階に分かれます。
相続が始まる前
- 信託銀行等に相談し、遺言の内容、相続人、対象の財産などを伝える
- 公証役場で公正証書遺言を作り、遺言執行者として信託銀行等を指定する
- 遺言信託を申し込み、亡くなったときに信託銀行等へ連絡する「死亡通知人」を決める
相続が始まった後
- 死亡通知人が信託銀行等に連絡する
- 信託銀行等が遺言書の内容を相続人などに披露し、遺言執行者として業務を始める
- 遺産と債務を調べて財産目録を作る。相続税などの申告・納付は相続人等が行う
- 遺産の管理・処分や名義変更を行い、遺産を引き渡して執行が終わる
信託銀行等は原則として公正証書遺言だけを保管し、自分で書いた自筆証書遺言は原則として預けられません。公正証書による遺言は家庭裁判所の検認が不要です(民法1004条2項)。遺言書の方式ごとの効力は遺言書の効力で解説しています。
遺言信託の費用は信託銀行等ごとに定め方が違う
信託協会は、遺言信託の費用は信託銀行等によって定め方が異なり、基本手数料に加えて遺言書の保管・執行の際に手数料が発生することが多いと説明しています。金額は各社で違うため、ふれあいの丘では個別の金額を載せていません。
公的な手数料が決まっている制度としては、法務局の自筆証書遺言書保管制度があり、保管の申請1件(遺言書1通)につき3,900円です(出典:法務省「自筆証書遺言書保管制度」、2026年9月30日確認)。ただし法務局は遺言の内容の相談には応じず、遺言書の有効性を保証するものでもありません。家族や専門家を遺言執行者にする場合の報酬は、遺言の定めか、家庭裁判所の決定によります(民法1018条1項)。
遺言執行者の指定・家族信託・遺言代用信託との違い
遺言信託と似た選択肢は、効力が始まる時期と、財産を扱う人が遺言執行者なのか信託の受託者なのかで見分けられます。
選択肢 | 財産を扱う人 | 始まる時期 |
|---|---|---|
遺言信託 | 信託銀行等(遺言執行者) | 遺言者の死亡後 |
家族などを遺言執行者に指定 | 指定された人(遺言執行者) | 遺言者の死亡後 |
家族信託 | 受託者になった家族 | 信託契約を結んだとき |
遺言代用信託 | 信託銀行等(受託者) | 信託契約を結んだとき |
遺言者は、遺言で一人または数人の遺言執行者を指定できます(民法1006条1項)。未成年者と破産者は遺言執行者になれません(民法1009条)。遺言執行者の仕事は遺言執行者とはで解説しています。
家族信託と呼ばれる仕組みは、親などが信頼できる家族を受託者として財産を託す信託契約(信託法3条1号)です。遺言は遺言者の死亡の時から効力を生じますが(民法985条1項)、信託契約は締結によって効力を生じる(信託法4条1項)ため、生前から財産の管理を任せられます。詳しくは家族信託とはをご覧ください。
遺言代用信託は、本人が財産を信託し、生存中は本人を受益者、亡くなった後は配偶者や子などを受益者と定める信託です(信託協会「遺言代用信託」)。信託協会は、遺言代用信託を使っても、普通に相続した場合と相続税の金額に違いはないと説明しています。
遺言信託が合いやすい人・ほかの方法と比べたい人
遺言信託は、公正証書遺言の作成から死亡後の執行までを一つの窓口に任せたい人に合いやすく、生前の財産管理や費用を重視する人はほかの方法と比べる価値があります。
遺言信託を検討しやすい人 | ほかの方法と比べたい人 |
|---|---|
遺言の執行を任せられる身近な人がいない | 信頼できる家族や専門家に遺言執行者を頼める |
相続人以外の人や寄附先に財産を遺したい | 自筆証書遺言を書き、法務局などで保管したい |
財産の種類が多く、名義変更などの手続きが多くなりそう | 判断能力が衰えたときに備え、生前から財産管理を任せたい |
申し込む前に確かめたい遺留分・遺言の変更・手数料
遺言信託を申し込む前には、遺留分への配慮、遺言を変えるときの扱い、手数料がかかる時点の3つを確かめておくと、相続が始まった後の行き違いを減らせます。
- 遺留分:兄弟姉妹以外の相続人には遺留分があります(民法1042条1項)。信託協会は、遺留分を侵害する遺言は遺留分侵害額請求を受け、遺言執行が円滑に進まないおそれがあると説明しています
- 遺言の変更:遺言者は、いつでも遺言の方式に従って遺言の全部または一部を撤回できます(民法1022条)
- 手数料:申込み時・保管期間中・執行時のそれぞれでかかる額を、書面で確認する
遺言の内容や相続人どうしの調整に迷うときは弁護士・司法書士に、相続税の見込みは税理士に相談してください。実家を誰に遺すか、売却して分けるかを考えている段階なら、実家の今の価値を査定で把握しておくと、家族や専門家と話し合うときの材料になります。
次の一歩:あなたの地域で調べる・試算する
記事を読んだら、お住まいの市区町村の具体的な情報や費用の目安を確かめてみましょう。
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