相続・死後の手続き

相続放棄した家の解体費用と管理義務は誰が負うか

親の家を相続放棄したのに「解体費用は誰が払うのか」「管理義務は残るのか」「固定資産税の通知が届いた」と困っている方へ。民法940条の保存義務、解体費用と清算人の費用、固定資産税の課税先、放棄前の片付けのリスク、特定空家の扱いを、e-Gov法令検索・裁判所・総務省の公表情報だけで整理しました。

相続放棄しても、放棄の時に家を「現に占有」していれば引き渡すまで保存義務が残る(民法940条)

相続放棄をした人は、放棄の時にその家を「現に占有している」場合に限り、相続人または相続財産の清算人に引き渡すまでの間、自分の財産と同じ注意でその家を保存する義務を負います(民法940条1項)。2023年4月1日施行の改正民法で、義務を負う人が「現に占有している」人に限られました(出典:e-Gov法令検索「民法」、2026年9月26日確認)。

「現に占有している」とは、同居していた、鍵を預かって出入りしていたなど、放棄の時点で実際にその家を支配下に置いている状態です。遠方に住んで関わっていない場合は占有にあたらないと考えられますが、判断は個別の事情で分かれるため弁護士・司法書士に相談してください。

申述書・必要書類・3か月の期限は相続放棄の3か月期限と必要書類にまとめています。

解体費用を放棄した人が負担する義務は原則なく、費用がかかるのは相続財産清算人の選任を申し立てる場合

相続放棄をした人は、その相続については初めから相続人でなかったものとみなされるため(民法939条)、放棄した家を自分の費用で解体する義務は原則ありません。民法940条の義務は「保存」であり、解体して更地にすることは保存の範囲を超えると一般に考えられています。

ただし、相続人全員が放棄した場合、占有している人の保存義務は家庭裁判所が相続財産清算人を選任するまで続きます。清算人は利害関係人または検察官の申立てで選任され(民法952条1項)、債務を清算して残った財産を国庫に帰属させます。申立ての費用は収入印紙800円分・郵便切手・官報公告料5,582円で、相続財産で管理費用や清算人の報酬が賄えない見込みのときは、申立人が予納金を納めることがあります(出典:裁判所「相続財産清算人の選任」、2026年9月26日確認)。予納金の公表額はなく、放棄した人が申立人になれるかも含めて弁護士・司法書士に確認してください。

相続して自分で解体する場合の目安は、当サイト調べで30坪の木造90万〜150万円です(ふれあいの丘編集部調べ、2026年9月時点)。構造別の内訳と自治体の補助金は空き家の解体費用の相場で確認できます。

固定資産税は1月1日時点の登記名義人に課税され、名義人が亡くなっていれば「現に所有している者」に課税される

固定資産税は、毎年1月1日(賦課期日)時点で登記簿に所有者として登記されている人に課税され、その人が1月1日より前に亡くなっているときは、その日に土地や家屋を「現に所有している者」が納税義務者になります(地方税法343条2項・359条。出典:e-Gov法令検索「地方税法」、総務省「所有者不明土地等に係る固定資産税の課題への対応」、2026年9月26日確認)。

相続放棄をした人は初めから相続人でなかったものとみなされるため(民法939条)、自治体は「固定資産税の納税義務もなくなる」と案内しています。ただし自治体は放棄の事実を把握できず納税通知書が届くことがあるため、栃木県芳賀町は家庭裁判所が発行する「相続放棄申述受理通知書」の写しを速やかに提出するよう求めており(出典:芳賀町「相続放棄したのに固定資産税の納税通知書が届いた」、2026年4月21日更新)、京都市・神戸市も同じ案内をしています。通知書を放置せず、市区町村の資産税担当に写しを出すのが実務上の対応です。

放棄の前に家の片付けや遺品整理をすると「処分」とみなされ、相続放棄ができなくなることがある(民法921条)

相続人が相続財産の全部または一部を「処分」したときは単純承認をしたものとみなされ、その後に相続放棄をすることができなくなります(民法921条1号)。家財を売る・捨てる、家を解体するといった行為は処分にあたる可能性があります。

民法921条1号は、保存行為と短期の賃貸を処分から除いています。腐りやすい食品を捨てる、雨漏りを応急的に直すといった現状を保つ行為は保存行為と考えられますが、線引きは個別の事情で判断が分かれます。片付けや遺品整理の業者と契約する前に、弁護士・司法書士に相談してください。

「遺品整理をしてもバレないか」と探すより、法律上のリスクを知っておくことが大切です。相続放棄をした後でも、相続財産を隠匿し、私に消費し、または悪意で財産目録に記載しなかったときは、単純承認をしたものとみなされます(民法921条3号)。債権者と争いになれば、放棄の効力そのものが問題になります。

放置した家が特定空家等に指定されると助言・指導から代執行まで進み、勧告を受けると住宅用地特例も外れる

そのまま放置すれば倒壊等で著しく保安上危険になるなどの状態の空き家は「特定空家等」にあたり、市区町村長は所有者等に除却・修繕などを助言・指導し、改善されなければ勧告、命令へ進み、命令に従わない場合は行政代執行法に従って市区町村が代わりに除却し、費用を義務者から徴収できます(空家等対策の推進に関する特別措置法2条2項・22条。出典:e-Gov法令検索「空家等対策の推進に関する特別措置法」、2026年9月26日確認)。

2023年12月13日施行の改正で、特定空家等になる前の「管理不全空家等」への指導・勧告も加わりました(同法13条。出典:国土交通省「改正空家法(令和5年法律第50号)について」)。勧告を受けた敷地は、固定資産税の住宅用地特例(課税標準を6分の1・3分の1に減らす特例)の対象から外れます(地方税法349条の3の2)。放棄後に占有している人が「管理者」にあたるかは個別の判断になるため、通知が届いたら弁護士・司法書士に相談してください。

放棄せずに手放す選択肢との比較——買取・解体して土地を売る・国庫帰属

借金がなく「遠方の実家を引き取りたくない」だけが理由なら、相続放棄は預貯金など他の財産も受け取れなくなるため、いったん相続したうえで手放す方法と比べるのが一般的です。

選択肢

建物の扱い

公表されている費用

向いている状況

相続放棄

占有していれば保存義務

清算人の申立てに印紙800円・官報公告料5,582円

借金が家の価値を上回る

相続して買取業者に売る

建物付きで引き渡せる場合がある

相続登記の登録免許税など

仲介で買い手がつかない

相続して解体し、土地を売る

自分の費用で解体する

木造30坪で90万〜150万円の目安。補助金が使える場合がある

土地だけなら需要がある

相続土地国庫帰属制度

建物がある土地は却下

審査手数料は土地1筆14,000円。承認後に10年分の管理費用相当の負担金

解体後も引き取り手がない土地

相続土地国庫帰属制度(2023年4月27日開始)は建物がある土地の申請が却下されます(出典:法務省「相続土地国庫帰属制度の概要」、2026年9月26日確認)。売れない家を買取で手放す流れは空き家が売れない5つの理由と対処法にまとめています。放棄の期限前に専門家に相談して選んでください。

よくある質問(FAQ)

Q1. 相続放棄した家の解体費用は誰が払うのですか?

相続放棄をした人に解体費用を負担する義務は原則ありません。全員が放棄した場合は、相続財産清算人が相続財産の範囲で清算します。

Q2. 相続放棄したのに固定資産税の納税通知書が届いたら?

自治体は納税義務がなくなると案内しています。相続放棄申述受理通知書の写しを市区町村に提出してください。

Q3. 相続放棄する前に、家の片付けや遺品整理をしてもよいですか?

相続財産を処分すると単純承認とみなされ、相続放棄ができなくなります(民法921条1号)。業者と契約する前に弁護士・司法書士に相談してください。

まとめ

  • 放棄の時に家を現に占有していれば、引き渡すまで保存義務が残る(民法940条)
  • 解体費用を負担する義務は原則ない。全員放棄なら清算人の申立て費用や予納金がかかりうる
  • 固定資産税は1月1日時点の登記名義人か「現に所有している者」に課税。放棄した人は受理通知書の写しを市区町村へ
  • 放棄前の片付け・遺品整理は「処分」として単純承認になるおそれがある(民法921条)

記事を読んだら、お住まいの市区町村の具体的な情報や費用の目安を確かめてみましょう。

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この記事について

本記事は一般的な情報提供を目的としたものです。相続・年金・税・登記などの手続きは、 個別の状況や法改正によって取り扱いが異なります。具体的な手続きや判断は、各市区町村窓口・ 年金事務所・法務局・税務署、および司法書士・税理士・弁護士などの専門家に必ずご確認ください。

編集・運営:株式会社Kogera「生前整理支援センター ふれあいの丘」。 実家じまい・遺品整理・生前整理の進め方を、当事者とご家族の目線でわかりやすくお届けしています。